似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「それは強制させちゃ駄目だろ」

 聞いたことのある声がして美空が振り返ると、そこには宮倉が立っていた。

「み、宮倉さん!?」
「行こう。ここにいるだけ時間の無駄」

 彼は美空の腕をつかんで走り出す。

「ちょっ……!」
「逃げなきゃ、だろ?」
「は、はいっ」

 足を踏み出して気がついた。そうか、逃げていいんだ、と。
 美空は宮倉の手を握り返して速度を上げる。

 美空の背中から洋介の怒った声が聞こえていたが、振り返らずにホテルを出た。
 そのまま信号を二つ渡りきったところで宮倉はようやく美空の腕を離し、足を止めた。

「ここまで来ればもう大丈夫だろう。追いかけてくるような奴には見えなかったし」
「あ、ありがとうございます……でも、どうしてあそこに宮倉さんが?」

 息を整えてから当然の疑問を口にすると、宮倉は苦笑いをしながら「実は」と口を開いた。

「この間、このホテルで元カレと会うって言っていただろう? ちょうど近くを通ったから何となく気になって。まさか本当にいると思わなかったし、あんな地獄の公開処刑に巻き込まれているなんて思わなかったけど……。あんな場面見たら、連れ出すしかないでしょ」
「地獄の公開処刑……ふふっ、宮倉さんのおかげで処刑されずに済みました」

 宮倉の言い方が面白くて思わず笑うと、緊張していた身体がほどけていく。

「本当に……怖かった」

 身体の力が抜けてへなへなと座り込みそうになる。
 すると宮倉が再度美空の腕を掴んだ。さっきよりも優しい力で。

「ちょっと落ち着こうか。そこのケーキ屋、中で食べられるんだ。美味いよ」

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