似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
鞄を受け取って医局へと戻ると、佐田が待ち構えていた。
「どこ行ってたんだよ。今日の礼をしに来たってのに、不在とはな」
「お前への荷物を取りに戻ってたんだよ。前言った学会用の資料。ほら」
優斗が資料を掲げると、佐田は驚いたような顔をした。
「マジで用意してくれたのか? 宮倉、お前ってやつは本当に良い男だな」
「今さら気づいたのか? もっと感謝しておけよ」
軽口を叩くと、佐田はいつもの笑みを浮かべた。
「そりゃあ感謝いたしますよ。今日は丸一日休みだったのに邪魔したな。本当は奥さんとデートだったんじゃないのか?」
「ちょうど帰ってきたところだった。この資料も俺が忘れたのを届けてくれたんだ」
正直に答えると、彼は大袈裟によろめいてみせた。
「おいおい、のろけか? あの宮倉がなあ……。結婚すると変わるもんだな」
「まあ、そうかもな」
「あー……ご馳走さまです。のろけはお腹いっぱいです」
「じゃあ戻れよ。せっかく資料用意したんだから無駄にすんなよ」
資料を押し付けると、佐田は苦笑しながらうなずいた。
「分かってるって。助かったよ。じゃあな」
佐田を見送ると、優斗は人気の少ない電話ブースに移動し、小野に電話をかけた。
数コールの後「もしもし、優斗くんかい?」と少し嗄れた声が聞こえてきた。
「お久しぶりです。病院の事で連絡しようと思っていたんですが、遅くなって申し訳ありません」
「いやいや、倒れてスケジュールを狂わせたのはこっちだよ。すまなかった。それと、病院では世話になったね」
「お加減はいかがですか?」
「もうすっかり元気だよ。まだまだ現役でいなくちゃいけないからね。……今日は、仁美のことだろう?」
小野と優斗は、仁美との婚約破棄以降も連絡を取り合い、業務提携の道を探っていた。
彼が倒れてからは話を中断していたが、大枠は合意できている。だが問題が残っていた。
それが小野仁美のことだ。
「えぇ。本人から伺いましたか?」
「いや。現場に居合わせたのさ。君の奥さんと仁美が話しているところにね」
「それは……どんな話を?」
「いつもの話さ。優斗くんに相応しいのは自分だと。本当に申し訳ない。こちらの管理不足だ」
彼女は『自分と結婚しないなら、絶対に業務提携させない』と強く要求しているらしいのだ。
今現在彼女に病院の決定権はないが、『もし勝手に提携を進めたら、私を慕っている医師は全員病院を辞めるわよ!』と強迫めいた言葉で小野に迫っているのだという。
「もう勘当しかないかもしれないね。医師は減るだろうが、仕方があるまい」
「さすがにそこまでは……俺からも話をしてみます。火に油を注いでしまうかもしれませんが」
「ははは、優斗くんに迷惑かけられないよ。あいつのことは任せてくれ。そんな事より美空さんへのフォローを頼むね」
「……分かりました」
その後、業務提携に向けての詳細を話し合う日程を決め、電話を切った。
(小野さん、声がかなり老け込んだな。早く提携を決めないと身体に障るだろう)
けれど仁美について、優斗に出来ることはほとんどない。優斗が動けば、むしろ彼女の態度を悪化させてしまうかもしれないからだ。
(とにかく今は小野さんに任せるしかない。それに美空ときちんと話さないと)
しかし早く帰ろうとした優斗に、再び急患対応の要請が入る。
結局家に帰れたのは日付を越えてからだった。
「どこ行ってたんだよ。今日の礼をしに来たってのに、不在とはな」
「お前への荷物を取りに戻ってたんだよ。前言った学会用の資料。ほら」
優斗が資料を掲げると、佐田は驚いたような顔をした。
「マジで用意してくれたのか? 宮倉、お前ってやつは本当に良い男だな」
「今さら気づいたのか? もっと感謝しておけよ」
軽口を叩くと、佐田はいつもの笑みを浮かべた。
「そりゃあ感謝いたしますよ。今日は丸一日休みだったのに邪魔したな。本当は奥さんとデートだったんじゃないのか?」
「ちょうど帰ってきたところだった。この資料も俺が忘れたのを届けてくれたんだ」
正直に答えると、彼は大袈裟によろめいてみせた。
「おいおい、のろけか? あの宮倉がなあ……。結婚すると変わるもんだな」
「まあ、そうかもな」
「あー……ご馳走さまです。のろけはお腹いっぱいです」
「じゃあ戻れよ。せっかく資料用意したんだから無駄にすんなよ」
資料を押し付けると、佐田は苦笑しながらうなずいた。
「分かってるって。助かったよ。じゃあな」
佐田を見送ると、優斗は人気の少ない電話ブースに移動し、小野に電話をかけた。
数コールの後「もしもし、優斗くんかい?」と少し嗄れた声が聞こえてきた。
「お久しぶりです。病院の事で連絡しようと思っていたんですが、遅くなって申し訳ありません」
「いやいや、倒れてスケジュールを狂わせたのはこっちだよ。すまなかった。それと、病院では世話になったね」
「お加減はいかがですか?」
「もうすっかり元気だよ。まだまだ現役でいなくちゃいけないからね。……今日は、仁美のことだろう?」
小野と優斗は、仁美との婚約破棄以降も連絡を取り合い、業務提携の道を探っていた。
彼が倒れてからは話を中断していたが、大枠は合意できている。だが問題が残っていた。
それが小野仁美のことだ。
「えぇ。本人から伺いましたか?」
「いや。現場に居合わせたのさ。君の奥さんと仁美が話しているところにね」
「それは……どんな話を?」
「いつもの話さ。優斗くんに相応しいのは自分だと。本当に申し訳ない。こちらの管理不足だ」
彼女は『自分と結婚しないなら、絶対に業務提携させない』と強く要求しているらしいのだ。
今現在彼女に病院の決定権はないが、『もし勝手に提携を進めたら、私を慕っている医師は全員病院を辞めるわよ!』と強迫めいた言葉で小野に迫っているのだという。
「もう勘当しかないかもしれないね。医師は減るだろうが、仕方があるまい」
「さすがにそこまでは……俺からも話をしてみます。火に油を注いでしまうかもしれませんが」
「ははは、優斗くんに迷惑かけられないよ。あいつのことは任せてくれ。そんな事より美空さんへのフォローを頼むね」
「……分かりました」
その後、業務提携に向けての詳細を話し合う日程を決め、電話を切った。
(小野さん、声がかなり老け込んだな。早く提携を決めないと身体に障るだろう)
けれど仁美について、優斗に出来ることはほとんどない。優斗が動けば、むしろ彼女の態度を悪化させてしまうかもしれないからだ。
(とにかく今は小野さんに任せるしかない。それに美空ときちんと話さないと)
しかし早く帰ろうとした優斗に、再び急患対応の要請が入る。
結局家に帰れたのは日付を越えてからだった。