似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 病院に着くと、佐田が準備をして待っていた。

「宮倉、急に呼び出して悪い」

 いつも笑みを浮かべている佐田が、真剣な眼差しで優斗に頭を下げている。

「構わない。それで容態は?」
「SpO2(酸素飽和度)が低下している。もう70を切る。酸素を入れているが上がらないんだ」
「分かった。予定通りBTシャント術を行う。佐田も立ち会いを頼む」
「もちろんだ」

 患者はまだ乳児だ。普段処置をしている大人とは心臓も血管もサイズが違いすぎる。

(集中しろ)

 優斗は短く息を吐くと、メスを手に取った。



「シャント通りました。クランプオフ」
「……心拍安定。SpO2、80を越えました」
「よし閉胸する」

 無事に患者の胸の縫合が終わると、オペ室の張り詰めた空気がわずかに緩んだ。

「出血ありません。カウント確認して」

 器具の数に問題がないことを確認しガウンを脱ぐ。
 佐田と目が合うと、彼は拳をこちらに向けた。

「お疲れ。やっぱ宮倉の手術は速くて正確だな」
「今夜シャントが飛ばないか注意してくれ」
「あぁ」

 処置を終えて家族への説明も終えると、優斗は医局で一息ついた。

(とにかく無事終わって何よりだ。……そうだ、美空が鞄を届けてくれたはずだ)

 受付から連絡が来ていたことを思い出す。ちらりと時計を見ると、まだ一般診療が開いている時間だった。

(今日は一日が長いな)

 優斗は疲れた身体に気合いを入れて受付へと向かった。

「すみません、預かっていただいた荷物を取りに来ました」

 受付の女性は優斗を見るとにっこりと微笑んで鞄を差し出した。

「宮倉先生、奥様が届けてくださいましたよ。可愛らしい方ですね」
「それはどうも」

 鞄を受け取ろうとしたが、女性は鞄を離さない。

「何か?」

 と聞くと女性は少しだけ声を潜めた。

「今日、小野さんのお孫さんが来ていたんですが、奥様と何やらお話しされていたので気になって……」
「なんだって?」
「一応先生に伝えとこうと思いまして」
「……ご親切にどうも。それでは」

 この病院のスタッフならば皆が知っているだろう。
 宮倉優斗は小野仁美という婚約者を振って、新たな恋人と結婚したという事実を。
 いくら病院が大きくても、まるで小さな村のようだ。誰が何をしていたか、あっという間に噂となって流れていく。

(だが、今回ばかりは噂好きに感謝だな。仁美が時々院内に来ている事も、今回の事も筒抜けだ。……一体仁美は何の目的で美空に近づいたんだ?)

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