似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
その日の夜。美空は優斗のためにいつもより手の込んだ食事を作り、彼の帰りを待った。
幸いなことに、二十二時には優斗が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
優斗がテーブルの食事を見て「美味しそうだ」と目を細める。
美空は思いきって口を開いた。
「あの、話があるんです」
「話があるんだけど」
二人の言葉が重なり、二人同時に「え?」と呟いた。
「美空も?」
「優斗さんも?」
二人で目を丸くして首をかしげているのが可笑しくて、二人して噴き出してしまう。
ひとしきり笑ったあと、優斗は「美空からどうぞ」と促した。
「えっと、もうゼスティアには戻れない可能性を考えて、新しい仕事を探してまして……オンライン講師の仕事を受けてみようと思っているんです。ストレッチやヨガをWebカメラ越しに教える仕事なんですけど、今の自室を使っても構いませんか? もし難しいようなら公民館とかを借りようと思うんですけど」
オンライン講師を自宅でやるなら、優斗の許可がいる。
どうだろうか、と優斗の顔色をうかがうと、彼は目を輝かせて頷いていた。
「奥の一部屋が物置になってるから、そこを使ったらどう? ストレッチやヨガをするくらいのスペースはとれる」
「良いんですか?」
美空が声を弾ませると、優斗は微笑んだ。
「もちろん。ここはもう二人の家なんだから好きにして良いんだよ」
二人の家。
その言葉が美空の心を温かくしてくれる。
「ありがとうございます! ……それで、優斗さんのお話はなんでしょう?」
美空の言葉に優斗の表情が少しだけ険しくなる。
「実は、仁美が俺たちと話がしたいと言ってきているんだ」
「仁美さんが、私たちと?」
仁美と会った時のことを思い出し、美空の表情が強張る。
「あぁ、三人でどうしても話がしたいと。そうしたら、もうあかつきと小野リハビリとの業務提携について、俺たちの結婚について、一切口出ししないと言ってきている」
「それは……」
美空は言葉を詰まらせた。
(仁美さんは、自分と結婚しない状態での業務提携に反対しているのよね。もし強行したら、彼女を慕う医師が病院を辞めると脅してきたって言ってたけど、それが解決出来るってこと?)
なぜ仁美がそんなことを言い出したのかは分からないが、これがチャンスであることは美空にも分かった。
「会いましょう。それで解決するなら」
美空が優斗の手をぎゅっと握ると、彼は「良いのか?」と不安げに呟いた。
「仁美が何を言ってくるかは分からない。もしかしたら、美空を傷つけるようなことを言うかもしれない」
「構いません。もう仁美さんの言葉で揺らいだりしませんから」
美空がにっこりと微笑むと、優斗は眉を下げた。
「この家に初めて来た時に言ったこと覚えてるか? 『何かあれば夫として対応するから』って美空に言ったよな」
「覚えてます。心強かったので」
美空が答えると、優斗は苦々しい表情を浮かべた。彼の瞳が揺らいでいる。
「そう言ったのに、俺は全然夫らしくなかった。美空が悩んでいることに気づかず、自分と病院のことしか見えていなかった。今回も俺は病院のことを優先してしまっている……」
「そんなことないです!」
思わず大声で否定すると、優斗が驚いて目を丸くした。
「優斗さんが踏み込まずに見守って、ただ優しくしてくれたから、私はここまでやってこれたんです。悪い夢を見た時も、嫌がらせで落ち込んでいた時も……。それに、洋介に怒鳴られていた時に助けてくれたじゃないですか! あれは夫として怒ってくれてましたよね? すごくありがたかったし、頼もしくて、格好良かったです。それにっ」
「わ、分かった。一旦止まってくれないか。さすがに褒めすぎ」
気がつくと、優斗が頭を押さえながら俯いていた。
心なしか顔も赤くなっているように見える。
「す、すみませんっ。つい、優斗さんがどれだけ素晴らしいかを伝えたくて……って私は何言ってるんでしょうね!?」
自分の言葉が頭の中で繰り返される。
告白よりも恥ずかしい台詞を吐いてしまったことに気づいた美空は、優斗よりも顔を赤らめた。
互いに顔を見合わせてはにかむように笑い合う。
結婚してから初めて、互いをさらけ出した気分だった。
「私たち、大丈夫だと思いませんか? 仁美さんと会って話したくらいで、どうにかなることはないですよ」
「そうかもしれないな。じゃあ、改めてよろしく頼む」
「はいっ」
幸いなことに、二十二時には優斗が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
優斗がテーブルの食事を見て「美味しそうだ」と目を細める。
美空は思いきって口を開いた。
「あの、話があるんです」
「話があるんだけど」
二人の言葉が重なり、二人同時に「え?」と呟いた。
「美空も?」
「優斗さんも?」
二人で目を丸くして首をかしげているのが可笑しくて、二人して噴き出してしまう。
ひとしきり笑ったあと、優斗は「美空からどうぞ」と促した。
「えっと、もうゼスティアには戻れない可能性を考えて、新しい仕事を探してまして……オンライン講師の仕事を受けてみようと思っているんです。ストレッチやヨガをWebカメラ越しに教える仕事なんですけど、今の自室を使っても構いませんか? もし難しいようなら公民館とかを借りようと思うんですけど」
オンライン講師を自宅でやるなら、優斗の許可がいる。
どうだろうか、と優斗の顔色をうかがうと、彼は目を輝かせて頷いていた。
「奥の一部屋が物置になってるから、そこを使ったらどう? ストレッチやヨガをするくらいのスペースはとれる」
「良いんですか?」
美空が声を弾ませると、優斗は微笑んだ。
「もちろん。ここはもう二人の家なんだから好きにして良いんだよ」
二人の家。
その言葉が美空の心を温かくしてくれる。
「ありがとうございます! ……それで、優斗さんのお話はなんでしょう?」
美空の言葉に優斗の表情が少しだけ険しくなる。
「実は、仁美が俺たちと話がしたいと言ってきているんだ」
「仁美さんが、私たちと?」
仁美と会った時のことを思い出し、美空の表情が強張る。
「あぁ、三人でどうしても話がしたいと。そうしたら、もうあかつきと小野リハビリとの業務提携について、俺たちの結婚について、一切口出ししないと言ってきている」
「それは……」
美空は言葉を詰まらせた。
(仁美さんは、自分と結婚しない状態での業務提携に反対しているのよね。もし強行したら、彼女を慕う医師が病院を辞めると脅してきたって言ってたけど、それが解決出来るってこと?)
なぜ仁美がそんなことを言い出したのかは分からないが、これがチャンスであることは美空にも分かった。
「会いましょう。それで解決するなら」
美空が優斗の手をぎゅっと握ると、彼は「良いのか?」と不安げに呟いた。
「仁美が何を言ってくるかは分からない。もしかしたら、美空を傷つけるようなことを言うかもしれない」
「構いません。もう仁美さんの言葉で揺らいだりしませんから」
美空がにっこりと微笑むと、優斗は眉を下げた。
「この家に初めて来た時に言ったこと覚えてるか? 『何かあれば夫として対応するから』って美空に言ったよな」
「覚えてます。心強かったので」
美空が答えると、優斗は苦々しい表情を浮かべた。彼の瞳が揺らいでいる。
「そう言ったのに、俺は全然夫らしくなかった。美空が悩んでいることに気づかず、自分と病院のことしか見えていなかった。今回も俺は病院のことを優先してしまっている……」
「そんなことないです!」
思わず大声で否定すると、優斗が驚いて目を丸くした。
「優斗さんが踏み込まずに見守って、ただ優しくしてくれたから、私はここまでやってこれたんです。悪い夢を見た時も、嫌がらせで落ち込んでいた時も……。それに、洋介に怒鳴られていた時に助けてくれたじゃないですか! あれは夫として怒ってくれてましたよね? すごくありがたかったし、頼もしくて、格好良かったです。それにっ」
「わ、分かった。一旦止まってくれないか。さすがに褒めすぎ」
気がつくと、優斗が頭を押さえながら俯いていた。
心なしか顔も赤くなっているように見える。
「す、すみませんっ。つい、優斗さんがどれだけ素晴らしいかを伝えたくて……って私は何言ってるんでしょうね!?」
自分の言葉が頭の中で繰り返される。
告白よりも恥ずかしい台詞を吐いてしまったことに気づいた美空は、優斗よりも顔を赤らめた。
互いに顔を見合わせてはにかむように笑い合う。
結婚してから初めて、互いをさらけ出した気分だった。
「私たち、大丈夫だと思いませんか? 仁美さんと会って話したくらいで、どうにかなることはないですよ」
「そうかもしれないな。じゃあ、改めてよろしく頼む」
「はいっ」