似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「ちょっと落ち着いてください」
「うるさいっ! あんたに何が分かるのよ! 私は……結婚しないと、優秀な医者と結婚しないといけないの! あかつきの息子なら、優斗なら、認めてもらえるはずだったのに!」
はあはあと肩で息をする仁美に、美空はそっと手を伸ばした。
「触んないで!」
「お父様ですか?」
美空の言葉に仁美の動きが完全に止まる。彼女の瞳には、恐ろしいものを見たかのような恐怖が浮かんでいた。
「仁美さんをそこまで追い詰めたのは、お父様なのですか?」
美空は再度問いかけた。
(仁美さんが本当に求めているのは、優斗さんとの結婚じゃない)
以前からの違和感が確信に変わる。
仁美は政略結婚を心から望んでいるのではない。自分の立場が危うくなるのを恐れているのだ、と。
「仁美さん」
「そうよ……私は落ちこぼれだから、結婚しないと価値がないの」
仁美は諦めたようにポツポツと語り始めた。
「私、医学部を目指していたの。でも全然駄目で、元々頭が良くないんだもの。ちょっと頑張ったくらいじゃどうにもならなかった。金さえ払えれば受かるって言われてた私立の医学部でさえ、受からなかった……。その日から父は私に何の期待もしなくなったわ。そうよね、跡を継げない娘なんて要らないわよ。でもそんな時、優斗との結婚話が舞い込んできたの」
仁美が口を噤む。
彼女はずるずるとその場に座り込んで、ため息をついた。
「父に『結婚しろ』って言われた時、すごく嬉しかったの。幼馴染みだった彼との結婚は嫌じゃなかったし。でも……駄目ね。優斗を見てると段々と辛くなっていった。だって、優斗はちゃんと医者になって働いているのに、私は何者でもない。だからせめて医者の妻として立派にならないとって。人脈作りに力を入れるようになったわ。『医者は、病院経営は、仲間が多くなければ成り立たない』って昔、父が言っていたから。それで色んなパーティーに出たり、SNSに力を入れていったわ」
仁美はスマホを取り出すと、「ほら」と美空に手渡した。
そこには華やかな写真が掲載されたSNSアカウントが映っていた。フォロワーの数も一万人を越えている。
「私、これで役に立っている気になっていたわ。逆に優斗がなんでパーティーに出ないのか不満だった。いつの間にか、彼が出来ないことをやってあげているって思い込んでた。……そんなはずないのに。それで、気がついたら親身になってくれる方に心が揺らいでいた。身体を許した訳じゃないけど、浮気も同然よね……。ふふっ、馬鹿げた話だと思ってるでしょ」
自嘲気味に微笑む彼女は、諦めの表情を浮かべている。
「思ってません」
「へえ、嘘つきの偽善者ね」
「嘘じゃないです。仁美さん、今でもSNSで病院の宣伝してるじゃないですか。まだ病院のこと気にしてるんですよね? 馬鹿になんか出来ないです」
美空がスマホをそっと返すと、仁美は黙ったままうつ向いた。
部屋が沈黙に包まれる。
彼女は小さく震えていた。
「うるさいっ! あんたに何が分かるのよ! 私は……結婚しないと、優秀な医者と結婚しないといけないの! あかつきの息子なら、優斗なら、認めてもらえるはずだったのに!」
はあはあと肩で息をする仁美に、美空はそっと手を伸ばした。
「触んないで!」
「お父様ですか?」
美空の言葉に仁美の動きが完全に止まる。彼女の瞳には、恐ろしいものを見たかのような恐怖が浮かんでいた。
「仁美さんをそこまで追い詰めたのは、お父様なのですか?」
美空は再度問いかけた。
(仁美さんが本当に求めているのは、優斗さんとの結婚じゃない)
以前からの違和感が確信に変わる。
仁美は政略結婚を心から望んでいるのではない。自分の立場が危うくなるのを恐れているのだ、と。
「仁美さん」
「そうよ……私は落ちこぼれだから、結婚しないと価値がないの」
仁美は諦めたようにポツポツと語り始めた。
「私、医学部を目指していたの。でも全然駄目で、元々頭が良くないんだもの。ちょっと頑張ったくらいじゃどうにもならなかった。金さえ払えれば受かるって言われてた私立の医学部でさえ、受からなかった……。その日から父は私に何の期待もしなくなったわ。そうよね、跡を継げない娘なんて要らないわよ。でもそんな時、優斗との結婚話が舞い込んできたの」
仁美が口を噤む。
彼女はずるずるとその場に座り込んで、ため息をついた。
「父に『結婚しろ』って言われた時、すごく嬉しかったの。幼馴染みだった彼との結婚は嫌じゃなかったし。でも……駄目ね。優斗を見てると段々と辛くなっていった。だって、優斗はちゃんと医者になって働いているのに、私は何者でもない。だからせめて医者の妻として立派にならないとって。人脈作りに力を入れるようになったわ。『医者は、病院経営は、仲間が多くなければ成り立たない』って昔、父が言っていたから。それで色んなパーティーに出たり、SNSに力を入れていったわ」
仁美はスマホを取り出すと、「ほら」と美空に手渡した。
そこには華やかな写真が掲載されたSNSアカウントが映っていた。フォロワーの数も一万人を越えている。
「私、これで役に立っている気になっていたわ。逆に優斗がなんでパーティーに出ないのか不満だった。いつの間にか、彼が出来ないことをやってあげているって思い込んでた。……そんなはずないのに。それで、気がついたら親身になってくれる方に心が揺らいでいた。身体を許した訳じゃないけど、浮気も同然よね……。ふふっ、馬鹿げた話だと思ってるでしょ」
自嘲気味に微笑む彼女は、諦めの表情を浮かべている。
「思ってません」
「へえ、嘘つきの偽善者ね」
「嘘じゃないです。仁美さん、今でもSNSで病院の宣伝してるじゃないですか。まだ病院のこと気にしてるんですよね? 馬鹿になんか出来ないです」
美空がスマホをそっと返すと、仁美は黙ったままうつ向いた。
部屋が沈黙に包まれる。
彼女は小さく震えていた。