死に戻り夫人の恩返し〜拝啓旦那様、あなたと結婚できて幸せでした〜

第42話 もう一度、あなたと共に

「学園長に指摘されて気づいたみたいで。でも悪い人じゃないんですよ。うちの父や兄に似た雰囲気の人で、まっすぐすぎるというか……」
「メラニアがそういうなら悪い人ではないのだろう。俺も今ならなんとなく分かる」
「ぬしよ、そんなにサラッとバラしてはつまらんではないか。恋愛とはもっと駆け引きを楽しむものだ」
「意地悪しちゃダメだよ。それに駆け引きしてると私達、またすれ違っちゃいそうだから……」

 恋の駆け引きは、恋愛上級者が楽しむものだ。
 少なくともメラニアには向いていない。のんびりと穏やかな恋を長く続けていきたい。

「むぅ。それはそれで困る」

 ももちゃんは困ったような声を出しつつ、新たな皿に移動する。次に狙いを定めたのはメラニアの皿だ。いつのまにかジニアの分は完食したらしい。

 小さな手が伸びる前に、スッとお皿を持ち上げる。

「食べ過ぎはダメだよ。今日のお礼も兼ねて、今度、ももちゃんモチーフのサントノーレ作ってあげるから今は我慢して。ね?」
「我が輩のサントノーレだと!? なら寛大な心で受け入れてやるしかあるまいな」

 一気に機嫌をよくしたももちゃん。
 ふんふんふ〜んと鼻歌まで歌い始める。そして何かに気づいたようにハッとした。

「そうだ! 誓約が果たされたのなら、父上と兄上の誤解もようやく解けるぞ!」
「誤解?」
「二人はまだ、図書館の妖精への供え物を我が輩が勝手に食べたと勘違いしているからな! 誓約のせいで一年も濡れ衣を着せられたままだった……。こうしてはおれん! 図書館に突撃せねば」

 ずっとあの日のことが引っかかっていたようだ。
 怒られたことではなく、勝手にお菓子を取ったと思われていることを気にするとは……。

 父も兄も、お菓子を作ったメラニアでさえ、全く気にしていないのだが、なんともももちゃんらしい。

 サントノーレとは別の日に、レーズンサンドも作ってあげようと心に決める。

「なら手と口を拭いてからにしよう」

 さすがにこのままの姿では、ももちゃんを知る職員達にさえ入館を拒まれてしまう。メラニアは専用のハンカチを手に取り、ももちゃんに付いた生クリームを拭き取る。

「我が輩はぬしのこういうマメなところが気に入っているぞ」
「ありがとう。はい、これで大丈夫」
「感謝する!」

 ももちゃんはカップに残っていたお茶を飲み干し、ドアからビュンッと飛んでいった。

「ももちゃんってモモンガの姿をすごく楽しんでるよな。本当に幸せそうで……よかった」

 ジニアがポツリと呟く。

 ももちゃんがジュエルフラワーの種から姿を現した瞬間を見ている彼にとっては、妖精としてのイメージが強いのかもしれない。

 同時に能力を使用したももちゃんのことも見ている。頑張りも無茶も知っているからこそ、今のほのぼのとした姿を見て安心したのだろう。

 半分開いたままのドアを見つめるジニアは、とても優しい表情をしている。

「私達家族のことも本当に大事に思ってくれているんですよ。この先も私達のそばにいてくれて嬉しいです」

 メラニアはまだ、ももちゃんを妖精として接することはできない。この先も我が家のモモンガとして接し続けるかもしれない。

 だがももちゃんはそれを望んでいるような気もする。
 不思議な力がなくても、ももちゃんはガルド家の一員なのだ。

「ゆくゆくはももちゃんがガルド家に残るか、うちに来るかも話し合わないとな。だが王子に王立魔物研究所の相談をするのが先か」
「何か気になることでも?」
「俺も一緒に働けないかと思ってな。辺境伯領を治めていた者として役に立つ部分もあるかもしれない」

 一緒に働けたらどんなに嬉しいか。
 所長もきっと歓迎してくれるだろう。

 だが一つ気になることがある。

「でもご実家の方はどうされるんですか? 以前と同じなら、数年以内にジニア様が当主になられるんじゃ……」
「実は近々、弟か妹が生まれるんだ。その子が大きくなるまでは現役で居続けると、両親は今から張り切っている。そんなわけで、急いで領地に帰る必要もないんだ。メラニアが残るなら俺もここにいたい」
「おめでとうございます! お二人とも子供がもう一人欲しいっておしゃってましたものね」
「ああ、念願が叶ったようだ。俺も両親のように、メラニアと仲良く歳を重ねていきたいと思う。だから改めて言わせてほしい」

 ジニアはおもむろに立ち上がり、メラニアの前で膝を折る。そして手を伸ばした。

「メラニア。どうか俺とファーストダンスを踊ってくれないか。憧れのドレスに身を包む君の隣に立ちたい」

 ジニアはメラニアが話した小さな憧れを覚えていてくれたのだ。
 以前卒業パーティーに誘ってくれた時も、無意識にメラニアの憧れを叶えようとしてくれた。メルクルゥのケーキだって。彼はいつもメラニアを喜ばせてくれる。

 その想いが嬉しくて。再び通じ合えた奇跡に感謝する。

 メラニアは差し出された手に自身の手を重ねる。
 何度も導いてくれた大きくて、優しい手だ。これから先、再びジニアと共に夫婦として何十年も共に歩んでいくのだろう。

「私でよければ喜んで」
 満面の笑みを浮かべるメラニアにはもう、迷いなどなかった。

(完)
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