御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 小夜莉は雅人の胸元に顔をうずめる。涙はとめどなく次から次に溢れ出してくる。全身を覆っていた恐怖が一度に放たれたかのように力が抜け、もう足で立っているのもやっとだった。

「小夜莉ごめん。怖い思いをさせて本当にごめん」

 雅人の声が抱きしめられた身体を通して聞こえてきた。小夜莉は何度も首を横に振ると、再び雅人の胸元に抱きついて顔をうずめる。 心地の良いホワイトムスクの香りが漂い、やっと安心した小夜莉は初めて声を上げて泣き出した。

「怖かった……すごく怖かったんです。でも私、絶対に負けないって。雅人さんのために、恐怖に打ち勝つんだって思って」

 声を震わせながら話す小夜莉に、雅人が何度もうなずく。そして愛しそうに小夜莉の頬に流れる涙を指で拭った。

「小夜莉は乗り越えたんだよ。自分の恐怖症に、自分の力で打ち勝ったんだ」

 雅人の優しい声に小夜莉はこくりとうなずく。小夜莉は雅人の背中にゆっくりと腕を回すと、力いっぱいぎゅっと抱きついた。
 もう怖くない。どれだけ触れられても身体が強張ることはない。

(でもそれは雅人さんだから)

 小夜莉は自分を安心させるぬくもりと香りを感じながら、いつしか意識を失うように眠ってしまっていた。
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