御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「小夜莉、こちらへ」

 雅人に手を引かれながら玄関前の大きな石造りの階段を上る。緊張で心臓はバクバクとしていた。
 雅人との結婚が決まってから、両親に会うのは二度目だ。母親とは式の時に顔を会わせただけだった。初め御子柴の御曹司との結婚なのに、こんなにあっさりとしていていいのかと疑問に思ったが、御曹司である雅人には一般人には考えもつかないようなドライな家族関係が普通なのかも知れないと自分を納得させた。それに契約結婚である自分が深く首を突っ込んではいけない気もして、小夜莉は何も言わなかったのだ。

 従業員が一列に並び一斉に頭を下げる中を進む。ついペコペコとお辞儀をしてしまいそうになり、小夜莉は慌てて背筋を正した。雅人にとってはこれが日常なのだろうと、まっすぐ前を見つめる横顔を見上げながら思った。

「小夜莉さん、この度は大変でしたね」

 大広間に入った途端、雅人の母が眉尻を下げながら駆け寄ってくる。母親は涙を浮かべた顔を見せると、温かい手で小夜莉の手をさすった。
 結婚式の時にも思ったが、雅人の目は母親譲りだと思う。とても慈悲深い瞳の色だった。

「ご心配をおかけして申し訳ございません」

 小夜莉が頭を下げると、母親は何度も首を振った。

「さぁさぁ、お父様がお待ちですよ。どうぞあちらへ」

 母親が手を向けた先には、庭に目をやってこちらに背を向ける父親の姿が見えた。一気に緊張感が増す。気持ちを引き締めた小夜莉が、雅人と共に向かおうとした時、ふと母親が雅人を呼び止めた。
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