御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「雅人、あなたはこちらへ」
「でも……」
「お父様はね、小夜莉さんと話がしたいんですって」

 にこやかにほほ笑む母親に、小夜莉は戸惑って雅人の顔を見上げる。昨日の報告であれば雅人と一緒の方がいい。

(それとも……まさか私が研究員だったから、雅人さんと別れるように言われるんじゃ……)

 小夜莉の心臓がドキドキと激しく動き出す。確かに小夜莉と雅人は契約結婚から始まった夫婦だ。でも今は、お互いに想いを伝えあい、やっと一緒に歩きだしたばかり。

(別れるなんてできない)

 小夜莉は不安でたまらない顔を上げる。すると小夜莉の気持ちが伝わったのか、雅人が小夜莉の手をぎゅっと握りしめた。

「俺は何があっても小夜莉と別れる気はない。小夜莉もそうだろう?」

 雅人に顔を覗き込まれ、小夜莉ははっとすると力強くこくんとうなずく。たとえ父親に何か言われようとも、今の小夜莉と雅人の絆は何よりも強いのだと思えた。

「お父様と話してきます」

 小夜莉は口元をきゅっと結ぶと、雅人の視線を感じながら勇気を出して進む。窓際まで歩き父親の後ろに立った小夜莉は、ゆっくりと口を開いた。

「お父様、お久しぶりです。この度は大変ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

 小夜莉が頭を下げると、父親がゆっくりとこちらを振り返る。顔を上げた小夜莉は、父親の顔を見て小さく目を開いた。てっきり厳しい顔をしているのだと思ったのに、その瞳は優しくほほ笑んでいるのだ。
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