御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「ひえっ。え、ま、まぁ、言っていたような? 言っていなかったような?」

 曖昧な返事をする司を雅人が睨みつけ、司がピシッと背筋を正した。
 小夜莉は俯いて話を聞きながら、小さく目線を動かす。

(雅人さんは自分から希望して、化学の社長になるってこと?)

 グループ企業の中でも主流派ではない御子柴化学を、どうして希望したというのだろう?
 するとそんなことを考える小夜莉の姿を、再び父親が品定めするようにじっと見つめる。

「つまり、そちらのお嬢さんが雅人の婚約者だと?」
「えぇ、そうです。小夜莉、挨拶を」

 雅人に促され、小夜莉はゴクリと生唾を呑む。
 でもここでひるんでは雅人に迷惑がかかるだろう。
 雅人は母のことをあんなにも喜ばせてくれたのだ。

「お、お初にお目にかかります。私、雅人さんとお付き合いさせていただいております、神崎小夜莉と申します」

 小夜莉は震える声を抑えながら丁寧にお辞儀をする。

「ほお」

 すると父親のやや驚いたような声が響く。
 父親はしばらく考え込むように顎を触っていたが「うむ」と納得したような声を出すと膝を叩いた。

「まさか雅人にこんなに美しい相手がいたとはな。小夜莉さん、雅人に話があるので、しばらく席を外してもらえますかな?」

 急に明るい声を出す父親に、小夜莉は慌てて深々とお辞儀をすると「失礼いたします」と部屋の外へ出た。
 扉がゆっくりと閉じ、顔を上げた小夜莉の全身からどっと汗が吹き出してくる。
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