御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 小夜莉は俯きながら、雅人と向き合う。雅人は長い腕を伸ばすと小夜莉の前にかかったベールをめくった。事前の打ち合わせでは、頬にキスをすると聞いている。雅人の手が伸び、小夜莉は急にビクッと身体を硬直させた。

(大丈夫よ、怖くない。何度もイメージしたじゃない)

 小夜莉は事前に頭で描いたシーンを繰り返しながら自分に言い聞かせる。こんな所で失敗したら、雅人に迷惑がかかってしまうだろう。
 するぎゅっと目を閉じる小夜莉の耳元で雅人の息づかいが聞こえた。

「安心して。決して君には触れないから」
「え……」

 パッと目を開けた小夜莉の頬に、雅人はキスをする振りをする。でもあまりにスムーズなその動きに、誓いのキスをしたのだろうと思い込んだ参列者たちからは甘いため息が零れた。
 小夜莉は小さく瞳を揺らすと、今は目の前でほほ笑む雅人の顔を見上げる。
 これは契約結婚だ。愛も恋も甘い言葉はひとつもないはず。それなのに……。

(なんで、そんなに優しくしてくれるの?)

 小夜莉は戸惑う心を抱えながら、ふたりの結婚を祝福する皆の拍手に包まれた。
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