御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「確か小夜莉の地元は海の近くだったよな」

 食事を終え、温かいお茶が入った湯飲みを傾けながら雅人が顔を上げる。小夜莉はゆっくりとうなずいた。

「はい。すぐ目の前が砂浜っていうくらい、海に面した穏やかなところです」
「あぁだからか。食事会の時お母さんが、小夜莉は貝拾いが好きだったって話してたよな」
「そうなんです。母が趣味で貝のストラップを作ってて。私は拾うのが専門でした」

 小夜莉はくすりと肩をすくめる。

「じゃあ、あのストラップも?」

 雅人が小夜莉のスマートフォンを指さし、小夜莉はこくりとうなずく。

「いつか私が男性恐怖症を克服して本当に好きな人ができたら、ふたりで一つずつ持つんだよって、母が渡してくれたんです」

 小夜莉は愛しそうにストラップをそっと指でなぞった。

「そうだったのか」

 雅人は目を丸くした後、口を閉ざし、それからしばらく何も言葉を発しなかった。雅人は何か考え事でもしているのだろうか。しばらく遠い目をしていたが、再び小夜莉を正面から見つめた。

「いつかそうなれたらいいな」

 優しく口元を引き上げながらそう言う雅人の顔を、小夜莉は「え?」と戸惑ったように見上げる。『そうなれたらいい』というのはどういう意味だろう。
 でもその意味を考えていた小夜莉の胸をチクチクと痛みが走りだした。

(それって……)

 小夜莉はテーブルの下の両手をキュッと握り締める。
 雅人は、小夜莉がここで恐怖症を克服して、いつか誰か好きなひとができたらいいな、という意味で言ったように感じたのだ。
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