御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
(きっとその相手は雅人さんじゃない。そう言いたかったんだ)

 小夜莉は苦し気な息をつきそうになって、はっとする。自分はなにを勝手に落ち込もうとしているのだろうか。

(雅人さんがそう言うのは当然じゃない。だって私たちは契約結婚なんだから……)

 小夜莉の視線が戸惑うように揺れる。

(もしかして私は、ストラップを渡す相手は、雅人さんがいいって思ってるの……?)

 小夜莉の中にそんな考えが浮かび、慌てて首を横に振った。なんて大それたことを考えているのだろう。
 相手は御子柴グループの御曹司で、自分はただの愛のない契約結婚の相手だ。お互いの目的が達成されれば別れることが決まっている。だからこそ心を揺らしてはいけないのだ。

(こんな気持ち雅人さんには迷惑なだけ。雅人さんは目的が達成されれば私とはさっさと別れて次の道に進むひとなんだ……)

 小夜莉は自分自身にうなずくと、メガネをぐっと押し上げる。そしてわざとらしくにっこりとほほ笑んだ。

「はい。だから頑張って恐怖症を克服しないといけないんです。早く目的を達成して、ここを出て行かなきゃいけない」
「小夜莉?」

 雅人が何かを言いかけようとしたが、小夜莉はそのまま言葉を続ける。

「今日もお忙しいのに、私の練習に付き合ってくださりありがとうございました。お茶入れ替えますね」

 小夜莉はそこまで一気に言い切ると、サッと立ち上がり雅人の湯飲みを取り上げようとする。でもその瞬間、わずかに雅人の指先が小夜莉の指先に触れた気がした。
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