御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 会長の希望であれば聞かないわけにはいかないだろう。雅人の社長就任も会長の一声で決まったようなものだ。パーティーの出席を渋ったら何があるかわからない。

「当日は俺と一緒に挨拶をして回ることになるだろう。俺の側にずっと立つのはきついかも知れないが、一応そのつもりでいて欲しい」
ふと目線をそらす雅人に、小夜莉は「え……」と小さく息を漏らす。でも雅人はそのまま「おやすみ」と背中を向けた。
「おやすみなさい」

 そう答えながら小夜莉の胸がぎゅっと苦しくなる。後ろを向く瞬間にふいに見えた雅人の顔は、普段の雅人からは想像もつかないほど苦し気だったのだ。
 バタンと扉の閉じる音が響く。
 小夜莉は今にも泣きだしそうになった口元をキュッと結んだ。
 雅人が見せた顔つきが何を意味するのかわからない。

(どうしてあんな顔をしていたの……?)

 小夜莉は雅人の指先が触れた自分の指を唇に当てる。きっと今の自分は雅人と同じような顔をしていると思う。

(私たち、何か思い違いをしているの……?)

 小夜莉はギュッと目を閉じると、しばらくその場から動くことができなかった。
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