御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 それにしても所長から直接業務を依頼されるのは珍しい。

(研究が立て込んでいるのかな?)

 小夜莉はそんなことを思いながら、パソコン画面を覗き込むとデータを順に入力していった。

 所長とは、入社当初に配属された地方工場の研究所時代からの付き合いだ。いわゆる研究者タイプの所長は、元々職員とコミュニケーションを取るひとではない。また小夜莉自身も極力人との関りを避けていたため、今までにも会話は数えるくらいしかしたことがない。

(でも確か一度だけ、すごく私を評価してくれたことがあったな)

 小夜莉は五年前の出来事を思い出す。
 地方の研究所で勤務していた時、工場の排水が農業用水に流れ込んでいると噂が出て、住民とトラブルになったことがあった。当初工場側は、その噂を完全否定して住民の訴えを突っぱねていたが、当然住民たちは納得しなかった。その時、小夜莉が水質調査を開始。細かく資料にまとめ安全性を報告したことによって、ようやく住民が納得するということがあったのだ。その報告書を高く評価してくれたのが所長だった。きっとその数年後、都心のこの研究所に異動になったのは、所長の推薦があったのだろうと思っている。

(そういえば……)

 小夜莉はふと顔を上げる。

(あの調査の時、御子柴グループの本社から来てた若い社員さんが、色々教えてくれたんだよね)
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