御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 当時小夜莉は入社してまだ間もない研究員だった。当然、研究に関する知識はあっても、それを報告書にまとめたり、プレゼン資料を作ったりすることはできなかった。そんな時、本社から来たという若い社員が、アドバイスをくれたのだ。

(すごく頭のいいひとだったな。私がうまく話せないから、全部資料を印刷して置いておいてくれたり、参考文献を開いておいてくれたりして。あのひとって、誰だったんだろう?)

 小夜莉はうっすらと残っている記憶を辿る。
 あの頃は小夜莉の男性恐怖症の症状も今よりも酷く、男性というだけで顔をまともに見ることもできなかった時代だ。当然その男性社員とも、距離をおきながら顔を背けて会話をしただけなので、どんなひとかもわからない。ただとても頭の回転が速く、細やかに気を使えるひとだという印象が残ったのは覚えている。

(だからかな? なぜかあのひととだけは会話ができたんだ……)

 男性というだけで恐怖で緊張していたのに、そのひとと話をできるようになったことをきっかけにして、小夜莉はその後少しずつ他の男性とも会話ができるようになったのだ。
 きっとあれだけの人物だ、今頃は本社の主要ポストで仕事をしているのだろう。
< 78 / 135 >

この作品をシェア

pagetop