御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 ブオーッとドライヤーの大きな音がバスルームに響く。小夜莉は長い髪を乾かしながら、脇に置いてあるデジタル時計に目をやる。もう時間は二十三時を過ぎている。きっと今日も雅人の帰りは遅いのだろう。

(ずっとこのままの生活が続くのかな……)

 小さく息をつきながらスイッチを切った小夜莉は、ふと洗面台に置いてあった小瓶を手に取った。
 これは先日のパーティーの時、美幸からプレゼントされたものだ。あの時、美幸は〝媚薬〟と言っていたが、裏の成分表示を見る限り特別な効能のありそうなものは何も入っていない。ひとつだけ特徴的なのは、NKRが独自開発したと大きく話題になっている植物由来の成分が入っていることだが、NKRはすべての製品にこの成分を入れていることを考えると、いわゆる普通の香水だった。

「これって、なんの媚薬なんだろう?」

 小夜莉がポツリとつぶやいたとき、急にかたんと音がした気がしてビクッと入口に顔を向ける。するとしばらくして、雅人が「ただいま」と顔を覗かせた。いつの間にか雅人が帰ってきていたのだ。

「ま、雅人さん。おかえりなさい……今日は、早いんですね」

 小夜莉は慌てて乾かしたての髪を手で整えると、一気に頬が熱くなるのを感じながら下を向く。途端にドキドキと心臓がうるさく叩きだした。

「何度か声をかけたんだが。驚かせてすまなかったな」

 眉尻を下げる雅人に、小夜莉は「いえ」と小さく首を振る。さっきまでドライヤーをかけていたから、何も聞こえなかったのだろう。
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