道しるべみたいな恋だった
「忘れられない恋、ですか……?」

私の困惑したような声を気にもせず、課長が平然と続ける。

「そう。そんなエピソードの一つや二つあるでしょ?」

そんな恋が簡単にあったら困るし、あったとしても、急に言われてどう対応すれば良いかすら分からない。
 
メイク用品を作るウチの会社はそろそろ新商品のシリーズを出す。

そして課長曰く、次の新商品のCMでは男女の恋愛をモチーフにするらしい。

そして、その企画会議で今までの恋愛エピソードを使うというのだ。

「えっと、フィクションでも良いんですよね?」

「いやー、出来たらリアリティがあった方が良いから……まぁ、そこら辺は適当に」

「はぁ……分かりました」

ここで断れないのは、悲しい社畜の(さが)だろうか。

(忘れられない恋、か)

まずそんなものはないし、もっと言えばあったとしても面白いエピソードを持っている人などいないだろう。

どうせみんな適当に出してくる、そんな私の考えを否定するようにその日の昼休みはいつもと違う盛り上がりを見せた。
< 1 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop