サイコ医局長の検体
1.サイコなサイケ
国立明聖病院の研究棟。
循環器内科の研究室では、ある騒ぎが起きていた。
「あなたでしょ?! あなたがうちの主人を唆したんでしょ?!」
「違いますよ! 私はただの教授秘書です! 教授とはなにもありません!」
「嘘よ! 証拠写真があるのよ?! この画像、あなたじゃないの!!」
循環器内科。この国立病院の中でも最も多く医師を抱える研究科である。
在籍する医師は52名。
循環器内科を束ねる井原教授はこの日、出張中だった。
彼の出張中に、井原教授の妻が職場に乗り込んできたのだ。
「いい加減にしなさいよ! お金がほしいなら風俗にでも行きなさいよ小娘が!!」
「なっ……んだとこのクソババア!!」
「本性あらわしたわね?! 誰かー! この女をとっ捕まえてちょうだい!!」
他の秘書たちが、関わりたくないとその場を離れていく。
教授秘書の新戸部と井原教授が不倫関係にあると、疑惑を持った妻が研究棟に乗り込んできたのだ。
だが今、研究室に医師たちはいない。外来時間のため、皆病棟の方に行っているのだ。
研究室では、井原教授の妻と新戸部が、今にも取っ組み合いを始めそうな空気が流れていた。
アワアワと慌てふためく医局秘書、藤沢みのりが、医局長室まで走っていく。
フワリとしたミディアムヘアを揺らし、白衣姿で医局長室のドア何度も叩く。
「医局長! 大変です! 教授の奥さんが乗り込んできました! どうしたらいいんですか?!」
ドンドンドンとうるさいくらいに叩いているというのに、中から声は聞こえない。
今日、医局長である十三郷は、当直明けのため外来は非番のはず。
朝から医局長室にこもりっきりのはずなのだ。
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