神代課長は、気づかない──私が、その手に捕らわれていることに

静かなる溺愛


仕事を終えて、エレベーターでエントランスへ降りると、外には既に課長が待っていて、私を見ると肩の力をふっと抜いたようにも窺えた。

「……来てくれてよかった」

並んで歩き出すと、しばらく沈黙が続いたあとに、ふと低い声が落ちた。

「昨日の君の言葉が、ずっと頭から離れない」

横にある顔は、仕事の時のように冷静に見えるのに、どこか微かな揺らぎが潜んでいるように感じる。

「全部、だなんて……あれは反則だ」

足を止めて告げる課長に、思わず私もピタリと足を止めた。

「……君がそう言うのなら、私も応えたい。ただの上司ではいられない」

不意に告げられた思いから、冷たい夜風を感じさせない熱が、ジンと伝わってくる。

そうして、長い間焦がれていた彼の大きく温かな手が、私の頬をそっと包み込んだ。

「私が、この手で触れたいと思えるのは……君だけだ」

待ち望んでいた告白に、息が止まりそうになる。

つと腕を引かれたビルの陰で、

「手だけじゃなく、唇で触れてもいいだろうか?」

静かな声音で問いかけられて、黙って首を縦に頷いた。

互いの唇が重なり合うと、捕らわれていたのは、やっぱり私だけじゃなかったと思えた──。




< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
IT企業 Coolz Corporation の若き社長、鷹騰 颯。 誰もが知る完璧な彼は、仕事に追われる日々の中で、恋人・霧島 絵梨華との関係すら、仕事の延長になりつつあった。 彼とは対照的に一般人の三咲 舞にも、長い付き合いになる、川浪 春樹というパートナーがいた。 互いに恋人のいるふたりが、高層マンションのエレベーターで偶然居合わせた瞬間、 閉ざされた密室の空気が、揺れ始める。 無意識に交わる視線。 言葉にできない戸惑いと、抗いきれない引力。 どちらにも恋人がいるはずが、密室で近づいてしまう心の距離が、やがては運命を変えていく予感へと……。 エレベーターの中で始まる、 閉ざされた密やかな恋──『密恋』
サマーラブ・ドリーム〜イケメンと真夏に恋して

総文字数/7,615

恋愛(ラブコメ)29ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
今年の夏こそ、イケメンな彼氏がほしい! そう切実に願ったら、翌朝ベッドにハダカのイケメンが……!? 突然始まる、真夏の恋♡
〜甘く、危険な恋〜止まない、愛してる。

総文字数/10,471

恋愛(キケン・ダーク)40ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
駅の階段で、 次は、歩道橋で、 だんだんと距離を狭めてくる、彼 次第に、その愛に捕らわれて、追い詰められていくように…… その愛情は、甘く止むことのない。 愛してる……

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop