無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「加地くん……」

 名前を呼んだだけなのに、喉が少し渇いた。

 「寺崎さんの心境が変わる瞬間に立ち会えるって貴重だな」

 幹人はそう言って、照れ隠しのように視線を逸らした。

 (……ずるいな。無自覚に心を揺さぶる言い方をするなんて)

 きっと深い意味はない。ただ、無難を好む人の思考を変えられた、純粋な喜び。なにかを達成できたときの心境と同じに違いない。他意はないのだ。
 グラスを持ち上げて口をつけると、さっきより少しだけ苦味が強く感じた。
 変化があるのもいい。
 そう言ったのは自分なのに、この変化は天音をどこへ連れていくのか。考えはじめてしまった時点で、もう後戻りはできない気がした。
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