無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
翌週、仕事はじめの朝。オフィスには正月休みの名残を引きずったような、緩やかな空気が漂っていた。年始の挨拶があちこちで交わされ、コピー機の前には順番待ちの列ができている。
天音は席に着き、社内システムを立ち上げた。
年末年始の間に届いていた申請書類を確認し、内容に不備がないかチェックしていく。休暇届、出張精算、備品発注の依頼。どれも慣れた作業のはずなのに、今日はやけに指が止まる。
金額欄を二度見して、計算しなおす。入力したはずの数字が合わず、思わずため息が漏れた。
(集中できてないな……)
自覚した瞬間、昨夜のやり取りが脳裏に浮かぶ。
両親に差し出された写真。穏やかな笑顔。条件の整った未来。
(会うって決めたのに)
頭では納得していても気持ちがついてこない。合理的に選ぶことには慣れているはずなのに、どうしてこんなに引っかかるのだろう。
午前の区切りがついたところで席を立った。
通路の突き当たりにある自動販売機へ向かう。暖房の効いたフロアでも、なぜか指先が冷たい。
ホットのお茶のボタンを押すと、がこん、と鈍い音がしてペットボトルが落ちてきた。
取り出した瞬間、背後から声がする。
「寺崎さん、休憩?」
振り返ると、資料ファイルを抱えた杉村が立っていた。