無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 梢の言うように、断る理由はひとつもない。むしろそれは、天音がずっと望んできた安定の未来だ。

 (会うだけ。そのくらいならいいじゃない。フィーリングが合わなければ、お断りすればいいんだから)

 波立つ心を抑える。名前のない曖昧な感情に揺れて、自分を見失うのは危険だ。

 「じゃあ、会うだけなら」
 「そう! よかったわ」
 「近いうちに顔合わせできるようにしよう」

 ふたりがうれしそうに声を弾ませる。いつにしようかと、壁掛けカレンダーを揃って見ながら算段しはじめた。
 これでいい。そう頭で理解しているのに、心がざわざわする。胸の奥に小さな棘が刺さったような、靴の中に石ころが入ったような不快感が、なぜか抜けなかった。
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