無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 (な、なんで……)

 名前は出ていないのに、頭の中に浮かんだのはひとりだけ。目を白黒させて彼女を見る。
 杉村は、それ以上踏み込まない。ただ、少しだけ声音を和らげて続ける。

 「安心しなさい。詮索するつもりはないわ。でもね、寺崎さん。仕事に影が落ちるほどの相手なら――」

 視線が、優しくも鋭く刺さる。
 杉村は言葉を区切り、静かに告げた。

 「もう、無視できない段階に来てるってことよ」

 返す言葉が、見つからない。
 ホットのお茶の温もりが、今になってじわじわと手のひらに伝わる。それでも胸の奥は、ひどく冷えたままだった。

 席に戻っても、画面に表示された申請一覧はほとんど頭に入ってこなかった。
 こういうときは考えない作業のほうがいい。
 備品の整理でもしようと立ち上がり、通路脇に置かれていたダンボールに目を向けた。つい先ほど納品されたばかりのものだ。
 台車に載せ、倉庫へ向かって押し出す。単純な動きのはずなのに、頭の中は相変わらず落ち着かない。

 (年下の男の子、か……)

 杉村の声が、繰り返し蘇る。

 (そんなことない。たまたま考えごとしてただけ。でも……『誰かを思い浮かべてるときの顔』って言われたら)
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