無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
翌週から幹人は課題が大詰めだと言い、出勤してこなくなった。
総務部は相変わらずだった。電話が鳴り、プリンターが唸り、誰かが書類を探して小さく舌打ちをする。幹人がいないからといって滞る仕事はない。むしろ彼が不在な分、割り振りは淡々と調整され、いつも通り一日が流れていく。
それがあたり前と思うのに、彼の姿がどこにもない光景が心の端に引っかかる。メモを取ろうとして、彼がよく使っていた付箋の色を思い出してしまったり、電話を切ったあとに『あとで加地くんに確認しよう』と口に出しかけて、はっとしたり。
昼休みが近づく頃には、そんな小さな違和感が積もって、妙に疲れていた。
そんなふうに月曜火曜と過ぎ、水曜日。天音の中でお決まりのラーメンの日だ。
幹人と遭遇したときのように相席にならないよう、混雑を避けるために少し時間をずらしてひとりでオフィスを出た。
寒さに身をすくめながら、いつもの店へ向かう。昼時を外せば比較的静かだ。
引き戸を開けた瞬間、聞き覚えのある声がした。
「あら、寺崎さん」
顔を上げると、カウンターに杉村が座っていた。スーツの上着を椅子の背に掛け、すでにラーメンをほぼ平らげている。
「杉村さん」
思わず足を止めてから、軽く会釈する。
「珍しいわね、ここで会うなんて」