無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 そう言われて初めて気づく。
 年下だからと無意識に引いていた線を、幹人は最初から越えていなかったのかもしれない。あるいは、越えていることに気づいていなかったのは自分だけだったのか。
 静かな神社で並んで歩いた背中。なにも言わずに差し出された手。どれも思い返せば、特別じゃないふりをしていたのは自分だけだった。
 胸の奥が、じわりと熱を持つ。否定したいのに、否定する理由ばかりが薄くなっていく。

 (私、いつから先輩の顔してなかったんだろう)

 答えが出る前に、丼の湯気が視界を揺らす。

 「……でも、付き合っていないのは本当なんです」

 それは事実だ。気持ちが揺れているのは杉村の指摘通りだが、それは天音のほうだけ。幹人にそんなつもりはない。

 「時間の問題かな」
 「私、お見合いするので」

 杉村が目を丸くする。

 「寺崎さんらしいといえばそうかもしれないけど」

 少しだけ間を置いて、息を吐くように続けた。

 「ちゃんと選んでるつもりでもね、気持ちって、勝手にべつのほうへ行くのよ」

 箸を持つ手が、ぴたりと止まる。選ぶという言葉が、重く胸に迫った。
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