無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 幹人だった。数人の先輩社員に囲まれながら、タブレットを片手に立っている。声は落ち着いていて、言葉に迷いがない。

 「施工順を一段階組み替えたほうが安全じゃないでしょうか。ここ、仮設を入れれば工程も短縮できますし」

 先輩のひとりが腕を組み、ふむと唸った。

 「若いのに、よく見てるな」
 「資格持ってるだけのことはある」

 そんな声が小さく混じる。
 幹人は少しだけ照れたように笑ってから、すぐに真剣な表情に戻った。

 「現場が無理をしない形が、結果的に一番きれいに仕上がると思います」

 その声には自信よりも責任が滲んでいた。
 先輩社員たちは顔を見合わせ、頷く。

 「よし、その案で詰めよう。加地、あとで詳細まとめといて」
 「はい」

 短く答える声が、すっと場を締めた。
 打ち合わせが解散し、人が散っていく中で幹人がふと顔を上げる。一瞬だけ目が合った。
 驚いたように目を見開いてから、ほんの少しだけ口元を緩める。声はかけず、ただそれだけ。
 天音も会釈するように視線を落とし、そのまま歩き出した。
 胸の奥に誇らしさと少しの寂しさ、そしてそれを表に出せないもどかしさが、ないまぜだった。
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