無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
自分のデスクに戻りキーボードを叩いていると、杉村から声がかかった。
「寺崎さん、ちょっといい?」
軽く手招きをしながら立ち上がり、近くのミーティングルームに入った彼女を追いかける。向かい合って腰を下ろすと、早速杉村が切りだした。
「あなたに総務課主任の話が来てるんだけど、受けてもらえる?」
「私に、ですか?」
なにかの間違いじゃないかと聞き返す。
「ええ、寺崎さんに。前野さんが間もなく退職するから、その後任に。私としては、ぜひお願いしたいと思ってるんだけど」
現主任の前野は夫の転勤に合わせて退職が決まっているが、その役がまさか自分に回ってくるとは想像もしていない。目を丸くして杉村を見た。
「以前のように断るのはもったいないと思うの」
二年ほど前に同じ打診を受けたことがあったが、無難を崩せない自分には肩書きに見合った仕事ができると思えず、その場ですぐ断っていた。
「いい意味でデフォルトの寺崎さんなら、絶対にいい仕事ができると思うのよね。どう?」
杉村の問いかけに、天音はすぐに答えられなかった。