無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 天音たちは、まだキスの先を知らない関係だ。卒業や入社、研修と盛りだくさんで、なんとなくその機会を逃してきた。
 戸惑いはある。でも、怖さはない。

 「嫌ならはっきり言ってくれないと、俺、止められなくなるから」

 そのひと言に、彼の誠実さが滲む。
 以前の天音だったら、予定外を嫌って断っていただろう。でも今は違う。
 天音はゆっくり首を横に振った。

 「ううん、嫌じゃないよ」

 それは、相手が幹人だからだ。
 腕の力がほんの少し強くなり、幹人は安堵したように息を吐いて、天音を反転させた。

 「その前に、ひとつ聞いてもいいですか」
 「なに?」
 「今日、お昼に一緒にいたの、誰ですか」

 突然の質問に目をパチッと瞬かせる。

 「幹人くん、あそこにいたの? 声かけてくれればよかったのに」

 なかなか会えないのだから、チャンスがあったら話したい。

 「声かけられる雰囲気じゃなかったんで」

 どことなく不服そうに言って続ける。
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