無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 エントランスの明るい照明の下、ロマンティックとは言いがたい場所で交わされた約束。でもこれ以上、誠実でうれしいプロポーズはない。

 「うん」

 その瞬間、幹人の肩から力が抜けたのがわかった。

 「……よかった」

 ほっとしたように小さく笑って、少しだけ照れた視線を逸らす。その仕草は、さっきまで坂口を正面から牽制していた人と同一人物とは思えない。
 人の流れが途切れた一瞬、幹人は躊躇うように手を伸ばし、天音の指先にそっと触れた。

 「手、いいですか」

 問いかけは控えめなのに、視線は真剣だ。
 答えるより早く、指が絡められる。強くはないが、離す気のない温度だ。
 それだけで、胸が幸せに満たされていく。
 並んで歩き出すと、自然と歩幅が揃った。
 幹人が、少し照れくさそうに言う。

 「これから忙しくなりますよね」
 「うん。でも」

 繋いだ手に、指先で力を込める。

 「一緒なら、大丈夫」

 幹人は驚いたようにこちらを見てから、くっと口角を上げた。
 夜道に並ぶ影が、ぴたりと寄り添う。
 恋人から婚約者へ。ふたりを表す表現に重みが増したのに、不思議と足取りは軽かった。
 繋いだ手の温もりをたしかめながら、静かに思う。
 これから先の現実も、きっと悪くない。そんな確信を胸に、ふたりは並んで帰路についた。
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