無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 一瞬、思考が止まった。熱を持った感触だけが遅れて残り、心臓が一拍遅れて大きく跳ねる。

 「……っ」

 声にならない息が漏れて、天音は慌てて一歩引いた。頬がじわじわ熱くなっていくのが、自分でもはっきりわかる。

 「もうっ」

 抗議の言葉とは裏腹に、視線が定まらない。
 幹人はそんな様子を見て、確信したように目を細めた。

 「今の、完全に不意打ち成功ですね」
 「成功とか言わないで……料理中なんだから」
 「だからこそかなって」

 さらっと言われて、反論が詰まる。
 余裕のなさを悟られたのが悔しくて、天音は鍋に向きなおった。

 「心配しないで、会社でキスはしませんから。……たぶん」
 「たぶんってなに」
 「誰もいないエレベーターとか会議室とかで、こっそりしてみたい欲求がちょっと」

 幹人は人差し指と親指で小さな幅を作り、これくらいと示す。冗談のはずなのに視線が真剣で、天音の胸がまた落ち着かなくなる。

 「そんなのダメに決まってるでしょ」
 「なんで」
 「なんでも」
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