無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「喜んでもらえたなら、それで十分」

 そう言ってから、幹人はケースから指輪を取り出した。
 手つきはゆっくりで、慎重なのに迷いがない。左手を取られると体温が伝わってきて、胸の奥がまたきゅっと縮む。

 「はめてもいい?」

 問いかけなのに、もう答えは決まっているみたいな声だった。
 天音は小さく頷く。
 幹人は指輪を指先にあて、たしかめるように一度だけ位置を整えてから、薬指へ滑らせた。
 最後にきゅっと軽く押す仕草が、これから先も離さないと言っているみたいで思わず息を止める。

 「似合ってます」

 飾り気のないひと言なのに、心に沁みる。
 この人は、大きなことを声高に誓わない。未来を並べ立てたり、約束で固めたりもしない。ただ、選んだことを静かに確実に積み重ねていく人だ。
 天音は指輪をはめた手で、幹人の手をぎゅっと握り返した。

 「ありがとう」
 「こちらこそ」

 その笑顔は年下だなんて言葉がもう似合わないほど落ち着いていて、頼もしかった。
 この人の隣なら、大丈夫だと自然に思える。
 テーブルの上でふたりの指先が絡んだまま、夜は静かに深まっていく。
 これから先もきっと、この人となら幸せを選び続けていける。
 ケージの中で、フレックスが鮮やかなオレンジ色に変わったのが見えた。

 END
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