無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「……っ!?」

 声にならない声が喉の奥で詰まる。思わず一歩後ずさり、心臓がどくんと跳ねた。

 (な、なに!?)

 犬猫コーナーの穏やかな空気を切り裂くように、それは悠然と通路を横切っていく。

 (ひゃあっ……!)

 長い尻尾が床をすっと撫で、その先端がパンプスの先すれすれを通り過ぎた。身動きもできずに息を潜める。
 ペットショップだからそういう生き物がいてもおかしくはない。でも彼らは、ケージの中に収められているものではないのか。外を歩き回るなんて想定外すぎる。

 「ちょ、フレックス、そっちじゃない」

 少し離れたところから、低いけどよく通る声が飛んだ。
 声のほうを見ると、通路の奥にパーカーを着た若い男性が立っていた。店の制服を着ていないから飼い主か。
 栗色の髪は寝癖をそのまま活かしたような無造作さで、切れ長の目は驚くほど真っすぐこちらを向いている。鋭さはあるものの、不思議と威圧感はなかった。

 「すみません、そっち行くと思わなくて」

 悪びれた様子もないまま、こちらへ歩いてくる。
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