無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 翌朝、本社ビルのエントランスには、朝特有のひんやりとした空気が漂っていた。
 天音は社員証を首に掛けなおし、エレベーターの到着を知らせるランプを見上げた。

 「おはようございます、寺崎さん」

 背後からかけられた声に肩が小さく跳ねる。振り返ると、幹人がにこやかな顔をして立っていた。

 「おはよう。今日は出勤だったのね」
 「はい。今日のランチ、一緒に食べませんか」
 「……なんで?」

 突然の誘いに不意を突かれてドキッとした直後、彼が手にしている紙袋が目に入った。
 天音の視線に気づき、幹人が袋を顔の前まで持ち上げる。

 「あっ」

 思わず声が出た。あのパン屋の看板と同じロゴが印刷されていたのだ。

 「気づきました? この前見つけたパン屋」
 「寄ってきたの?」
 「覗いたら開いてたんで」

 口角がニッと上がる。得意気だ。

 「さすが行動力の塊」
 「気になったら、我慢できないタイプなので。それで」

 幹人は紙袋をそっと抱えなおし、天音に少しだけ顔を近づけて声を落とす。
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