無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 歓迎会から三日が経過。天音の毎日は、いつも通りの業務にすんなり戻っていた。

 出社するとまずメールを確認し、各部署から届く問い合わせに優先順位をつける。
 備品の発注、会議室の予約調整、申請書類の不備確認。小さな抜けや行き違いをひとつずつ潰していくのが、総務の仕事だ。
 昼前には、来月分のスケジュール表を更新し、差し替えた資料を共有フォルダに上げる。
 誰かが困らないように、誰かが止まらないように。目立たないところで歯車を整える。

 幹人はその間、出社していなかった。研究があるらしく、インターン期間中も毎日来るわけではないと聞いている。
 総務部のフロアは静かで、作業は滞りなく進み、完璧に一日が終わっていく。
 帰り支度をして会社を出たとき、不意にあの夜のことを思い出した。その路地を横目に見ながら通り過ぎる。

 (加地くん、あのパン屋には行ったのかな)

 遠目で見たところ、まだ営業しているようだ。
 天音も気にはなっているものの、この三日間素通りしている。一歩足を踏み出せば覗ける距離なのに、今日も進路は変えなかった。
 いつもの帰り道、いつもの選択。そうしていれば、余計なことは起こらない。
 そう思いながら天音は真っすぐ前を向き、駅へ向かった。
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