年下幼馴染はおててに夢中
止まらないにおわせ
 一体自分は何してるんだろう、と結はトレイに詰められたリングを見た後に、真面目な顔をして色々リングを見つめる辰彦に目を移した。

 お揃いのペアリングが欲しい。ストレートにそう言われてやってきたのは近くのアンティークジュエリーショップ。
 工房が併設されていて刻印もその日のうちにしてくれるショップだが、穴場なのかちらほらと客がいる程度だった。

「結ちゃんは、アクセサリーとか普段つける?何色がいい?」
「えっ? いや、あんまり付けないんだよね⋯⋯でも、ゴールドよりはシルバーのが好き、かも」
「そっか。じゃあシルバーにしよう」

 もう完全に今日お買上げの前提で話が進んでいる。
 辰彦が真面目にみてる傍ら、一応手に取って見てみるがふと我に返り、何故ペアリングを買う流れになったのか考えてしまう。
 付き合ってもない男とペアリング。
 しかも自分に告白してきて振った男と。
 言葉におこして見ると本当にわけがわからなくなり、難しい顔をしている結を辰彦が覗き込んできた。

「結ちゃん、これ付けてみて欲しい。手、貸して」
「あっ、う、うん?」

 たまたま左側に辰彦が立っていたからか、辰彦が左手を手に取った。
 そしてそのまま、すっと流れるように左手の薬指に嵌め込んだ。

「たっ、辰彦?」
「ん? これ、俺は結ちゃんに似合ってると思うけど⋯⋯どう?」

 呼ばれて返事をしたものの、辰彦にその気はなかったのか、いつものように淡々としていた。

「い、いいかも?」

 声が裏返った。なんだか自分だけが意識してるようで、恥ずかしくて目を逸らした。

「じゃあ、これにしよう。
 お揃いだね」

 ふっ、と少しだけ辰彦の口角が上がる。
 自分とのお揃いがそんなに嬉しいか、まだ自分のこと好きなのか。そう聞きたいのに、自惚れてる感じがして恥ずかしかった。
 お揃いだね、という辰彦の嬉しそうな声掛けになんて返したか自分でも分からないまま、赤い顔のままレジに向かった。
 店員が素早い手つきでクリーニングクロスでリングを拭いたあとにケースにしまうと、紙袋にしまって辰彦に渡した。しれっと全額辰彦が払ってることに気づき追いかけると、辰彦は店の外で結にリングケースを開けてみせた。

「これ、結ちゃんの方。出来れば今つけてみて欲しい、俺もつけるから」
「えっ⋯⋯あ、わ、わかった」

 お金、と言いかけたが、プロポーズするようにジュエリーボックスを開けて見せられて、赤い顔のまま右手の中指につけてみた。
 こんな所でプロポーズか?と通り過ぎのサラリーマンが見てた中、若干ムッとした辰彦がケースを紙袋にしまうと、結の手を優しく取って指輪を外した。

「⋯⋯せめてこっちがいい」

 辰彦の指輪を取った手が、結の右手の薬指にはめ直した。
 せめて、と言ったのは左手ではなく右手で妥協した、ということだろうか。答えを聞く勇気もなければ、辰彦から答え合わせが帰ってくるとも思えなかった。
 今日何度目かも分からない赤面になったが、悟られないようにその指で財布を開けた。

「い、いくらだったこれ? ちゃんとお会計みてなくて、ごめん」
「お金なんかいらない。俺が結ちゃんにプレゼントしたかっただけだから」

 更に結が動揺するのに気づいてないのか、辰彦も右手の薬指に指輪をはめた。
 無表情にも見えるその顔は、どこか嬉しそうに指輪を眺めていた。

「⋯⋯結ちゃん、この後予定ある? なかったら、もう少しこの指輪つけて、俺に付き合ってほしい」
「よっ、予定? な、ないよ、ない⋯⋯う、うん、大丈夫」
「よかった。結ちゃんどこか行きたいとこある?」

 動揺しながらも、結は辰彦と隣合って歩き始めた。
 辰彦の左手に触れる度に、心臓がばくばくと大きく鼓動する気がした。
 今まで辰彦のことを男として見てなかったのに、まだ辰彦がそう思ってるかもしれない、そしていざ距離が近くなると勝手に意識してしまう自分が辰彦の手のひらで転がされてるようで恥ずかしがった。

「気になる映画があるんだけど、やってるかな? 近くに映画館もあるし、辰彦がよければ⋯⋯」
「映画ね、タイトルどれ?」

 最寄りの映画館の上映スケジュールを見せるために結の方へ屈むと自然と距離が近くなる。
 これだけで結は途端に緊張するのに、涼しい顔をしてる辰彦に反抗するように、結はあえてぐっと顔を近づけた。

「これ、あ、丁度いい時間にやるじゃ⋯⋯ん」

 辰彦のスマホを持つ手に重ねるように自らの手を重ねてスワイプさせると、いい時間が表示された。
 空席も見ると真ん中あたりが空いていた。
 ラッキーだね、と思ったよりも近い距離に辰彦の顔があって、辰彦が頬を赤く染めて目を丸くしていた。

「っご、ごめん近すぎた!」

 自分から近づいたくせに、急に恥ずかしさが込み上げて結は顔を勢いよく逆へと逸らした。
 逆方向を向いたせいで、少し残念そうな顔をした辰彦の顔は見れなかったことを、本人は知る由もない。
< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop