夜盲
乃亜くんは、テレビの前で地べたに座り、ヘッドフォンをつけてゲームをしていた。チームを組み、敵を撃って倒すタイプの、よくあるシューティングゲームだ。
彼は扉の前に立つあたしを横目でちらりと一瞥し、すぐ画面に視線を戻す。
「……夢見さんさ、勝手にドア開けんの、やめて」
「なんで。声かけたじゃん」
「開けられると困るときだって、あるかもでしょ」
「なに? やらしーことしてんの?」
「それはそっちの方だろ。マジで最悪」
彼は見るからにご機嫌斜めってかんじで、言葉がちくちくしている。猫背ぎみに丸まった背中から、こちらに対する敵対心みたいなものが透けて見えた。
だけど乃亜くんからの敵意は、道端で散歩中のチワワに吠えられる程度のものにしか感じられない。迫力がないというか、真に迫ったものに思えないというか。
「ねー。佳乃くんが、いなくなっちゃった」
「ふうん」
「煙草買いに行くって言って、置いてかれちゃった」
「なんで一緒に行かなかったの」
「制服着てる女を連れて煙草買うのはなんかヤダって」
1メートルほど距離を開けて、隣に座ってみる。
乃亜くんは画面から目を離さない。ヘッドフォンも外さない。あたしと会話をしたくないみたいだ。つまんねー男。
「ていうか、乃亜くんの部屋、きれーだね」
「佳乃なんかと一緒にしないで」
「してないって。佳乃くんと乃亜くんってびっくりするほど別の生き物じゃん」
乃亜くんのヘッドフォンからは微かに音漏れがする。ばきゅん、ずどん、ばきゅんばきゅん。ゲーム画面を隣で眺めてみるも、何が面白いのか全くわからなかった。乃亜くんは夢中でプレイしているみたいだけど、佳乃くんはこういうゲーム、しないんだろうな。
「出て行って欲しい?」
「そりゃあ、もちろん」
「じゃあ、佳乃くんのこと教えて。そしたら出てくから」
「……3つだけな」
がちゃがちゃと、コントローラーを鳴らしながら乃亜くんが言った。あたしを追い出せるなら何でもいいのか。この手法でいけば、これからも乃亜くんから佳乃くんの情報を引き出せるかもしれない。
「じゃあまず、ひとつめ。佳乃くんは普段何してる?」
「大学。就活。あとは遊んでる」
「ふたつめ。佳乃くんの好きなタイプは?」
「そんなの知らない」
「今のってふたつめにカウントされる?」
「あたりまえ。次で最後な」
「えー。それズルくない?」
「一個は一個でしょ。最後の質問は?」
「ちょっとまって、一瞬考える」
佳乃くんのことを知るにはいい機会だし、できれば佳乃くん本人に聞きづらいことが聞くのが良いだろう。だけど、質問に対して乃亜くんから「知らない」って返されてしまえば、それ以上情報が得られなくなる。
ならば、イエスかノーで答えられる質問にすれば良いだろう。
「じゃあー、最後の質問ね。乃亜くんから見て、佳乃くんが本気で恋愛してるとこ、見たことある?」