夜盲
質問を投げかけたその瞬間。モニター画面が赤くなり、ゲームオーバーの文字が現れる。
乃亜くんは頭からヘッドフォンを取り外すと、首元にそれをぶら下げた。
「……ある」
ロード画面を真っ直ぐ見つめるその横顔が、佳乃くんにとてもよく似ていた。
やや鷲鼻ぎみなところが、とくにそう。キスをするとき、近くで見つめ合うとき、その鼻の高さにいつも驚いてしまう。乃亜くんとキスなんか今後一生しないだろうけど、あたしはその鼻の高さをよく知っている。
「もう別れてるはずだけど、たぶん、本気だったのはその人だけ」
「へえ、そうなんだ」
「ショック?」
「ううん。むかついてるだけ」
ゲームのコントローラーが床に放り出される。乃亜くんは膝を抱えて、その腕の中に口元を埋めた。
「おれはもう、うんざりしてんの。佳乃が色んな女連れ込んで、捨てられたひとが佳乃に執着して泣いてるのとか、向こうの部屋から聞こえてくるたびに最悪な気分になる」
「それってさ、あたしを牽制してるの?」
「そう。だから、傷つく前にやめとけば」
「乃亜くんさ、そんな牽制であたしが止まると思ってる?」
彼は腕の中に顔を埋めたまま、視線だけを動かして横目であたしを見た。
続けろ、と言われているようだった。
「あたしと佳乃くんが初めて会ったときのこと、聞いてるでしょ? あたしはね、お姉ちゃんの免許証でマッチングアプリ登録して、初めて会った佳乃くんとお酒飲んで、ホテル行っちゃうくらいには軽率な女なの」
たしかに、出会い方や関係の始まり方は、最悪だったかもしれないけれど。だけど、あのときの行動がひとつでも違っていれば、あたしは佳乃くんと出会えなかったし、佳乃くんと関係を持つこともなかっただろう。
あたしはちっとも後悔していない。これからするつもりもない。
「そんなあたしに、たかが口先だけの説得が効くとでも思ってる?」
あたしの言葉をすべて拾った乃亜くんは、今度は自分の顎を、腕の上に乗せる。口元が、ちょっとだけ緩んでいた。
「……はは。それもそうか」
佳乃くんの部屋とは違って、殺風景で生活感のない部屋に、乃亜くんの乾いた笑い声が響く。ベッドと、テレビと、ゲーム機しか置かれていない部屋。テーブルもないし、テスト前は一体どこで勉強してるのか気になるところだけど、あいにく、これ以上乃亜くんと雑談をするつもりもない。
「むかついちゃったから、今日はもう帰ります。乃亜くんにもむかついてますし、あんな軽薄なかんじのくせに、ちゃっかり元カノと大恋愛してた佳乃くんにも、むかついちゃったので」
「どーぞ。お気をつけて」
「佳乃くんが帰ってきたら、夢見宵は帰ったと伝えておいて。じゃ、また来るねー」
どきどきしたり、むかついたり、かなしくなったり、嫉妬したり。身体の内側で巡る感情はぜんぶ厄介でウザいけど、それでも、止められない。
恋は麻薬だ。佳乃くんを摂取すればするほど、もっともっと欲しくてたまらなくなる。
あたし、佳乃くんのものになりたいの。だから佳乃くんも、あたしのものになればいいのに。