密かに… そっと…
「待って! 三波さん!」

「三波さん!」

名前を呼ばれた気がして、ピタッと足を止める。

「風香ちゃん‼︎」

その呼び方に、思わず振り返った。

すると、詩音くんがこちらへ駆け寄ってくる。

「なんでっ」

私は詩音くんの顔を見ることができず、再び背中を向けた。

辺りはすっかり暗くなり、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。

「風香ちゃん、あの……」

詩音くんはそこまで言うと、言葉を探すように俯いた。

「さっきの……聞こえた」

「っ!」

「聞くつもりじゃなかったんだ。本当にごめん」

私は何も言えなかった。

「でも……」

詩音くんは一度ぎゅっと拳を握る。

「俺、ずっと言わなきゃって思ってたんだ」

そう言うと、何かを決意したようにゆっくりと顔を上げた。

「俺は風香ちゃんが好きです」

「えっ?」

私はガバッと顔を上げた。

(聞き間違い? 今、好きって聞こえたけど……)

真っ直ぐに詩音くんの目を見つめる。

恥ずかしいというより、信じられない気持ちの方が強かった。

「俺、中学の頃からずっと風香ちゃんが好きだったんだ」

詩音くんは照れくさそうに視線を逸らした。

「だから、その……すっごく勉強して、風香ちゃんと同じ高校を目指した」

「えっ、うそ」

何に驚いているのか、自分でもよく分からなかった。

詩音くんが私を好きだったこと?

それとも、私を追いかけて同じ高校を目指してくれたこと?

「本当。みんなには無理だって反対されたけど、どうしても風香ちゃんと同じ高校に行きたかったんだ」

詩音くんは頬を人差し指で掻いた。

「俺、あんまり話すの得意じゃないし、風香ちゃんといると緊張するし……」

そこで一度言葉を切る。

「でも、本当にずっと好きだった」

びゅうっと冷たい風が、二人の間を駆け抜けていった。

それでも私たちは、しばらく見つめ合ったまま動くことができなかった。

「私……」

か細い声が、自然と口からこぼれる。

私は一度そっと目を閉じた。

「私、詩音くんが好きです」

その言葉は、もう迷いなんてなくて。

しっかりとした意志を持って、はっきりと言葉を紡いだ。

「私、詩音くんが大好きなの」

詩音くんは、力が抜けたように膝に手をつき、深く体を折り曲げた。

「はぁ……」

大きく息を吐く。

「良かったぁ……」

小さく呟いたその言葉を、風が拾って私の耳まで運んできた。

ふふっ。

詩音くんが、とても勇気を出してくれたことが分かって嬉しかった。

詩音くんは膝に手をついたまま顔を上げる。

「あの……」

そう言うと、ゆっくりと体を起こした。 

「三波風香さん。僕と付き合ってください」

そう言って、私に右手を差し出す。

「はい。よろしくお願いします」

私はその手をしっかりと握った。

ふふっ。

ふふふっ。

私たちは手を繋いだまま、顔を見合わせて笑い合った。

「あっ、そうだ」

私はそっと手を離した。

「詩音くん、これ」 

私はチョコレートのことを思い出し、鞄の中からピンクのリボンがついた袋を取り出して詩音くんに差し出した。

バレンタインのチョコレート。

告白なんてするつもりはなかったのに。

本当に、告白する日になっちゃったなぁ……。
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