元カレは、今も私をミケと呼ぶ
指先が、冷えきっていることに気付く。
傘の先から水滴がポタポタと落ちて、私の足元に広がっていく。

あの日も、こんな雨だった気がする。

(……ちょうど二年……)

ふと、我に返って陽太を見上げる。

私の視線に気付いて、包み込むようなやさしい笑顔をする彼に、胸の奥がズキリとする。

別れたあの日と、同じ顔だった。
私の言葉を否定しないで受け入れてくれたときの、あの表情――


私はそっと、左手を傘の陰へ隠す。

結婚もしていないし、恋人もいないのに。

何でこんな無意味なことをするのか、自分でも分からないけれど。

本当は変わってない私を、見られたくないから。

……かもしれない。


不自然な動きに、陽太は何も思わなかったらしい。
私の手元にあった視線がすぐに戻って、明るく笑いかけてくる。

「何でミケがこの駅にいるの?」

彼にとっては、友だちと話すのと同じみたいだ。

「取引先の人とご飯食べてて」

「へぇ……」

私もなるべく、彼に合わせようと笑顔で答えようとする。

少し間が空く。
陽太が、わずかに近付いた。

「それってさ。……男?」

急に声のトーンが落ちたように聞こえた。

それから、陽太はハッとした表情をして、少しだけ眉を寄せた。

「え?」

表情がコロコロ変わる彼を見ていると、答えに迷う。

(営業の男性、なんだけど……)

仕事で同行して、契約がうまくいかなくて。
食事しながら反省会をしただけ。

そのままを伝えても、何もおかしくないのに。
視線が合わなくなった陽太を前に、言葉に詰まってしまう。
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