この結婚は、間違いじゃない〜告白相手を間違えた令嬢は、溺愛されていることに気づかない〜
「フレディ、私の目を見て。本当に間違いだと思っているの? 」

「ぅな⁉︎ 」

ひとしきり伝え終えたフレデリックは、おもむろに顔を上げると奇声を発する。ガツンと机に足をぶつけながら、騒がしく立ち去った。


「フレディ?」

部屋に取り残されたリディアは、一人茫然と立ち尽くすことしかできない。


話す場所をここに選んだのは、人払いのためだったのね。

ここならば、誰かに立ち聞きをされることもないから。

激しく言い合いをしたとしても……。


「何?フ、フレディ?」

「少しの間だけじっとしていてほしい」


激しく息切れをしながら戻ってきたフレデリックは、リディアにガウンを羽織らせる。ぐるぐる巻きにするように、しっかりとかっちりと、紐を固く結んでから元の席へと座る。


机に肘をつき顔を埋めたフレデリックは、終始顔を赤らめて呟いている。

「あれでは、ほぼ裸じゃないか、ばっちり見てしまった……かわ……何を言っている落ち着け!すまないアーサー……」

王宮で文官を務めているだけあって、どんな時でも決して動揺を見せずに淡々と仕事をこなすフレデリック。そのせいで20代なのに30代に見られることが多い。落ち着いた身のこなし、大人びた貫禄。肩幅も広く、文官であるにも関わらず鍛えられた肉体は周囲の目を惹きつける。


そんなフレデリックが動揺をしていることに、リディアは怪訝に思う。

そして、はたとそこで自身があられのない格好をしていたことに思い至る。

「こ!こ、これは、フレディ、ごめんなさい、私、そんなつもりではなくて、これは……い、いつも、こういう格好をしているの!」

何を言っているの私……。


「そ、そうなのか? そういう格好は……襲われても文句は言えない。誤解を招くから、やめるように。すごく、いい……いや、違う、そうではなく、と、とにかく……私は何を言ってるんだ……」


リディアは、夜の営みを期待していたことを誤魔化すように、とんでないことを口走って後悔する。

いつもこんな格好って、何を言っているのかしら。そんなの、単なる痴女じゃない。
そんなに見苦しかったのかしら。あのフレディが取り乱すなんて。


リディアは、胸元が隠れているのを確認するように、手を当ててガウンを握り締める。 ガウンからは、ほんのりとフレデリックの匂いがした。

「フレディ──」



「リディア、私のことは、今後はフレデリックと呼んだほうがいい。アーサーが勘違いするといけない! 私達が、愛し合っていると……。
私達は、アーサーを裏切ってはいないのだから。
勿論、きちんと、私の口からもアーサーには説明する。リディア、君は心配しなくてもいい。
私達は、白い結婚なのだから。アーサーも理解してくれる。」


「アーサーが……?」

「あぁ、リディアも新聞をみただろう?
アーサーが帰ってくる。7年だ。
無事で良かった。リディアも……本当は待っていたのだろう? 
私は、君の気持ちを大切にしたい。
もう、私の役目は終わった。君を自由にしたい。アーサーの元に……戻るといい。」


「自由に……?」

忘れたくても忘れることのできない過去の過ちが蘇る。

フレディ、あなたは私を束縛していると思っていたの? 自由にしたいって、私は……。
どうして分かってくれないの?
ほんの少しでいいから、こっちを見て。
どうして、そんなに苦しそうなの?

どんなに手を伸ばして触れようとしても、あなたはいつも私の手を取ってはくれない。
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