あの日の風の、その続き〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来






「エリシア様。国王陛下と王妃様がお呼びでございます」

その声が、現実に引き戻す。


「……ええ」


微笑みを貼り付ける。

王女としての顔。

そのまま一歩踏み出し、二人に軽く会釈する。


リゼはそのままクロードを見つけて、何やら言い合いを始めていた。

その光景に、自然と笑みがこぼれる。


――あの二人は、変わらない。

変わらないまま、隣にいられる。


最後に、もう一度だけ、ゼンを見る。


けれどその視線は、すでに自分ではなく、広間の奥へと向けられていた。


フラン侯爵の隣に立つ、ひとりの女性へ。


(……やっぱり)


「……」


何も言わず、エリシアは視線を外す。



夜風が、静かに吹き抜けた。





「エリシア様、こちらへ」



侍女に導かれ、エリシアは静かに歩を進めた。

今一度、息を整える。


――王女として。


そう言い聞かせてから、顔を上げた。



そこにいたのは、国王と王妃。


そして――


見知らぬ青年が一人。



薄く色づいたような檸檬色の髪
整えられた装い。
無駄のない立ち姿。


その場にいる誰よりも落ち着いて見える。

それなのに、視線だけがまっすぐこちらを捉えていた。


「紹介しよう。こちらが――」


父の言葉を待つまでもなく、その青年は一歩前へ出る。

そして、静かに膝をついた。



「エリシア・L・ロザリア様にご挨拶申し上げます」



よく通る、穏やかな声。

ゆっくりと顔を上げたその瞳は、一切逸れることなく、エリシアを見つめていた。


逃げ場のないほど、まっすぐに。


「レオン・アルディスと申します」


その名を聞いた瞬間、
胸の奥で、何かが小さく揺れた。


(この人が――)


縁談の相手。


理解するよりも先に、息を呑んだ。



「……顔を上げてください、レオン」


なんとかそれだけを口にする。

レオンは静かに立ち上がり、ほんのわずかに距離を保った。

近すぎず、遠すぎない。

踏み込みすぎない、その立ち位置。


「本来であれば、正式な場を設けるべきでしたが」


レオンが口を開く。

「どうしても一度、先にお会いしたく、無礼を承知でこのような機会を頂戴いたしました」

その言葉に、父と母が嬉しそうに顔を見合わせた。


「なんと誠実な方だ」

「ええ、本当に。エリシア、素敵な方でしょう?」


楽しげな声。

期待に満ちた視線。

それが、自分に向けられている。


「……ええ」


エリシアは、微笑む。

王女として、正しい反応。

けれど、胸の奥は、静かに沈んでいた。


(……どうして)



こんなにも“正しい人”なのに。



どうして、こんなにも――苦しいのだろう。









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