あの日の風の、その続き〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来





「リゼ!!」

リゼの姿を見つけたエリシアは、駆け寄るようにリゼを強く抱きしめた。


「リゼ、髪が……!それに、ひどい怪我を!」


涙を溜めるエリシアの頭を、リゼは優しく撫でた。


「邪魔だったから切っただけ!」

そう言ってなんでもないように笑ってみせるリゼの声は、いつも通り明るい。


ただ、その腕や肩に巻かれた包帯が痛々しかった。


いつもそうだ。

リゼはいつも無茶をする。

傷付いても、倒れても、それでも立ち上がる。


守られることを嫌い、いつだって誰よりも強くあろうとする。



「……いいかげんに、してくれよ。」


クロードは、エリシアと話をするリゼを少し離れた位置から見ていた。

その拳は、爪が食い込むほど強く握り締められていた。


(まただ。)

リゼは、何も変わらない。

誰の心配も、届かないまま前へ出る。

そのたびに、自分の中の何かが削られていくのに。



リゼは、子供の頃から頑固で負けず嫌いだった。

公爵令嬢でありながら、近衛騎士になると言い出した日。

誰もが止めた。

「女の子なんだから」

「公爵家の令嬢が」

そんな声を、リゼは全部振り切った。

兄・ゼンに頼み込み、護衛隊の試験を受けた。

その頃からすでに、剣の腕は突出していた。

男たちの中でも、遅れを取らなかった。

その様子を見ていた団長が、その才能を気に入り隊に迎え入れたのが三年前。

リゼが十四歳の時。

クロードは十六歳だった。

その頃の彼は、騎士になる気などなかった。

ただ、リゼを放っておけなかった。

父が元団長だったこともあり、試験は簡単な実技だけで通った。

気づけば、同じ隊にいた。

そのときもリゼは、不満そうに睨んでいた。

「なんであんたがいるのよ」

そんな顔をしていた。

明るくて、まっすぐで、眩しいほど強い少女。

それでも身分は違う。

リゼは公爵家。

自分は伯爵家の次男。

近くにいることすら、本来は許されない距離だ。

それでも。

(守りたい)

その気持ちだけは、消えなかった。

けれど、それを口にしたことは一度もない。

ただ、そばにいられればそれでいいと思っていた。

――もっと強くならなければ。

リゼより強くなって。

彼女の前に立てる存在に。

その理由さえ、言葉にすることはなかった。



『お前がいない世界で――』

クロードの声を思い出しながらも、リゼはまだ知らない。

その言葉の重さを。

その意味を。




< 5 / 36 >

この作品をシェア

pagetop