純愛

由佳といる時間

由佳は一緒にいると、いつも「水」のようなものをイメージさせる。動じず、すーっと吸収する。由佳のおなかに頭を乗せると、きゅるんきゅるんと色々な音がして笑えてくる。最近体を鍛え始めたという由佳をからかって、おなか周りの肉をつかんで怒られるが、正直このやわらかさがたまらない。

由佳のおなかに頭を乗せると、必ず由佳がやさしく髪をなでる。いつもはハゲ具合いが気になるのだが、由佳に触られると、そんなことはどうでもよくなる。そして気がつくと、いびきをかいて寝てしまうのだ。

「川島さん、起きて」と揺り起こされるが、あまりの心地よさに起き上がることができない。これが骨抜き状態ってやつか?なんて思いながら、手探りでやわらかい体を抱き寄せる。すると暖かいからだが大吾をつつみ、また髪がリズミカルにやさしくなでられる。また、「川島さん」と呼ばれて揺り起こされる。「奥様に叱られますよ」

由佳は妙に礼儀正しい。何度抱いても、やっぱり大吾のことを「川島さん」と呼び、敬語のままなのだ。どれだけ酔っ払っても、どれだけ時間を過ごしても、たぶん由佳は自分に気を許してくれることはないのだろう。

気を許してほしいわけではない。みずきと別れるつもりはないし、由佳もそれを知っている。由佳だって夫も子供もいる。でも時々考える。旦那の前の由佳はどんな顔をしているのだろう。

「川島さんって私が旦那に抱かれてようが、ぜんぜん気に無いですよね」
一度、由佳が笑いながら言った。富野宝山のロックをカラカラいわせながら、頬を赤く染めた由佳はとろんとしていた。正直言って、大吾と関係を持ちながら、旦那とも夫婦生活あるなんて思ってもみなかった。
「だってしょうがないじゃん。」強がって言った。そう言うしかなかった。止めることなんてできないのだから。
「なーんだ、さみしい」またロックをカラカラさせながら、由佳が微笑んだ。目は笑ってはいなかった。本当に寂しそうな目をして、焼酎に口をやった。


だってしょうがないじゃん。
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