フラワーリング
視線を落とすと、彼が押している荷台にはたくさんの花が積まれていた。
白いバラに、淡いピンクのトルコキキョウ。
優しい色合いの花たちが揺れている。
もしかして、ひかりさんが言っていたフラワーデザイナーの方かな。
そう思いながら隣を歩く。
「今日はフェアの装花ですか?」
なんとなく尋ねると、
「ええ。チャペルと披露宴会場を少し」
落ち着いた声だった。
荷台を押すその手元が、ふと視界に入る。
また見てる。
心の中で自分に小さくツッコミを入れ、私は慌てて前を向いた。
そうしているうちに、目的のチャペルへと辿り着いた。
「こちらです」
扉を開けると、柔らかな陽の光が差し込む。
まだ誰もいないチャペルは静かで、どこか特別な空気を纏っていた。
「ありがとうございました」
そう言った彼は、すぐに荷台へ向かう。
慣れた手つきで花を取り出し、祭壇へ運んでいく。
私は帰ろうとして――足を止めた。
長い指が白いバラを一本手に取る。
決して綺麗な指ではなかった。
細かな傷がいくつも残り、親指の付け根には赤く小さな擦り傷がある。
さっきまで案内板をなぞっていたその指が、今はまるで壊れ物を扱うように花へ触れている。
その優しさに、不思議と目を奪われた。
花を扱う人の手なんだ。
そう思ったのに。
私は、またその指先を見ていた。