煉瓦坂の少し奇妙なX'mas
 クウェスから智樹の店までは正味5分もかからない。けれどその道すがら、すでにクリスマスに溢れていた。汚染されている。煉瓦坂に入る道には派手なオーナメントで飾られたツリーがドンと設置され、もくもくと雲のような綿がかけられている。商店街で揃えたのか、煉瓦坂の名前と店名入りのクリスマスリースが夫々の店の前に飾られ、極めつけは高らかなクリスマスソングが耳に煩い。
 あれは季節ソング。年末にお正月がかかるようなものだ。
 そのように季節はただ意味もなく移ろうのが日本の風情である。そう思って商店街に踏み込めば、やはりクリスマス感という呪いが空気感染してくる。
「環、大丈夫?」
「……クリスマスなんて嫌いだ」
 心配そうな智樹の声に余計いらつく。自覚がないところが一番腹立たしい。しかしこいつが迷惑を呼び込んでくるのはいつものことで、だから……ああ糞。面倒臭ぜ。
 そうして環の店の前に到着し、結界は正常に作動していることを確認しつつ、足を踏み入れて眩暈がした。ここはすでに、クリスマスという以前の問題に思われて、ある意味ホッと一息を吐く。そして公理智樹という無駄に見目麗しい友人が狼狽えているのを眺めた。
「えっと……?」
「いつも通りだな。愛情、嫉妬、独占、そんなものばかり散らばっている。よかったな、別にクリスマスの呪いじゃない」
「え、そう?」
 智樹はやはり、何もわかってなさそうに馬鹿みたいに口から音を出す。
 けれどクリスマスを入口、いわば媒体として智樹に向かって呪いがかかっていることは間違いない。気持ち悪い思念がツリーの下に転がる大小の箱から智樹に絡みついている。これらを全部、例えば呪い返しのように持ち主に返してしまうのが一番簡単なのだが……智樹の意識はともかく認識としては大々的に受け入れてしまっているから、そのまま返すのは理屈的に無理だろう。招いている以上、これから訪れるものも扉で防ぐのは不可能だ。
「八方ふさがりだな」
「あれ、環さん。観念して髪を切るんです?」
「切らない」
 声に振り返れば、確か吾郷という店員がこちらをみている。そして見渡せば、他の店員も目に入り、思わず首を傾げた。
「智樹、もともとは店の小規模な宴会の予定だったんだっけ?」
「宴会? クリスマスパーティだよ」
「忘年会に後から客が加わることになったってことだよな、順番としては」
「順番……? まあ順番としてはそうなんだけど?」
 ここの店員はみんな顔がいい。だから智樹だけじゃなく、それぞれの店員も思念が絡まっている。まるでクラッカーを鳴らして被った紙テープをそのままにしたみたいに。店員同士の贈与物は別室に引き上げたというのは賢明だ。意味合いを完全にずらせばなんとかなるだろうか。これらはクリスマスを前提にした呪いなのだから。
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