煉瓦坂の少し奇妙なX'mas
「そうさせてもらうよ」
 よっこいしょとセットチェアに横たわる。このいわゆる『美容院の椅子』は過度にリクライニングが効くけれど、お客さんがいる時間帯では自分で寝ころんだりはできないから、案外自己使用が難しい。マッサージ機能欲しいよ。そう思いながら見上げた天井は、バックヤードと違って少しグリーンみがかかっていた。でもきっとこれで、面倒事は全部終わりだ。体は随分重いけど、あとはパーティだけだ。
 ……そういえばパーティってバックヤードでやらないと駄目なのかな。ケータリングってそれなりの量だろうしぎゅーぎゅーになりそう。あそこでパーティするのは窮屈そうだ。あれ? 追加したフードって結局どうしたんだ? 皆で食べる分考えてもオーバーキルじゃない? そんなことを考えているうちに時間が経過したようだ。
「公理さん、パーティの準備できましたよ。ほら起きてください」
 声に顔を向ければサンタの帽子とクラッカーを手に持った要ちゃんが残念そうな顔で俺を見ていた。
「あれ? 夢?」
「違います。現実です。さっさと起きてください」
「え、なんで」
「あんな空っぽな夢をみたら心配にもなるでしょ。第一……私が言い出しっぺだし」

 どこか極まりの悪そうな要ちゃんからクラッカーを受け取りHANDSで買った帽子を被る。買ったことすらすっかり忘れてた。それで起き上がれば受け付けのスペースにケータリングされた食料が運び込まれ、シャンパンとかジュースとかが並んでいる。真ん中には蝋燭のたったケーキ。
「おお」
「公理さん、早く来てください、帰れません」
 吾郷君の言葉に慌てて駆け寄る。
 まじでクリスマス・パーティ感だ。この仕事を始めてからは、初めてかもしれない。なんだかちょっと、ワクワクした。それでクラッカーを掴んだと同時に、なんか酷く嫌な予感がした。あれ? 何か忘れてる? このまま紐を引いてしまうとやばいような予感が、バックヤードの方からする。
「公理さん、私早めに帰んなきゃなんだけど」
 要ちゃんのいう事はもっともで、第一、見渡したみんなの顔は疲れ切っていた。俺も帰って寝たい。あれ、でも環はバックヤードでやれっていっていた。なんでここじゃ駄目なんだ? 本当に駄目?
 でもじゃあ、どうしたらいいってんだよ。疲れた皆にここに準備してもらってるのにバックヤードに退散させるなんてできるわけない。つまり他の手段が思い浮ばない。ちょくちょく感じる駄目なんじゃないかなという気分を押し殺し、ビクビクしながらクラッカーを構える。
「みんなお疲れ様。それじゃ」
 メリー、クリスマスといおうとした瞬間コン、コンという音が鳴り、みんな一斉に店の入り口を振り返った。何。やっぱ駄目なやつ?
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