煉瓦坂の少し奇妙なX'mas

宗教、という言葉が最近陳腐化している気がする。by環

「環さん! ブッシュドノエルなんてどうですかね⁉ あぁ絶対的クリスマス感!」
 智樹と入れ替わりに現れた時透奈美子(ときとうなみこ)に、俺は途方に暮れていた。まだ智樹の方が良かったかもしれない。あいつはいわゆるイケメンで、モデルかしら役者かしらと周りからの無言の視線がたら騒がしくはなるものの、無視しとけば仕事に集中できる。けどこの騒がしい生き物は線香花火みたいにパチパチとどうでもいいことをわめきたてる。しかし考えた所で結局はどうしようもない。他人の強固な意思など思うようにできるはずがない。
「お前、魔女になるんじゃなかったのかよ」
 目の前の感無量気味に両掌を組んだ病み落ちしかけた女子高生、奈美子は先ほどからかしましくクリスマスプランを述べ立てている。その中には奈美子だけでなく俺の予定も組み込まれているわけだ。俺の意思に反して。
「それはそれ、これはこれです。神棚のある部屋でクリスマス祝って寺で除夜の鐘ならしたその足で神社に初詣に行く国で何言ってるんですか!」
「まぁ、そう考えればブッシュドノエルは合ってるな」
 あれももとはケルトのユール(冬至祭)だが、キリストの降誕祭とまじりあい、フランスの食卓に供されて今では日本で定着している。
「いずれにしてもお前の手作りは絶許だ。そんな怪しげなものを食べるくらいなら自分で用意する」
 奈美子に作らせれば何を入れられるかわかったもんじゃない。そう思っていれば、目にハートが浮かぶという言葉がばっちりな奈美子の表情に悪寒が増した。
「えっ環さんが作ってくれるんですか?」
 そうしてふと、なしくずしに何故かクリスマスを奈美子と祝うことになっていることに気が付いて舌打ちが漏れた。しかし自分が吐いた言霊に反することはできない。それが俺が魔法を使う決まりなんだ。つまりドツボだ。
「そんなわけあるか。適当に予約しとくよ」
「えっ? デパートとかの予約期間はもう過ぎてますよ?」
「当日買いに行けばいいだろ。並ぶだろうが……しかたがない」
 本当に面倒くさいの連鎖だ。様々な思念にまみれた列に大人しく並ぶなど、自ら穢れを浴びに行くに等しい。ドミノ倒しに思えてきた。けれどますます言葉は積み重なり、全てを無しにするにはもはや手遅れだった。
「ブッシュドノエルなんてすぐに売り切れるに決まってるじゃないですか! ああぁただのホールのショートケーキしか残ってませんよう~」
 奈美子は大げさにバタバタと目の前でバツをつくる。
「お前、本当に人を呪うのが得意だな」
「えへ、でもブッシュドノエル、食べたいです」
 仕方なく奈美子にスマホを借りて、腐れ縁のケーキ屋に嫌な気分でコールする。
円城(えんじょう)だ。クリスマスにブッシュドノエルを頼みたい」
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