時田君と私の秘密の契約〜毎週金曜日の秘め事〜
 「あっ、もう休憩時間終わりだからこの話はこれで終わりという事で」

 時計を見て休憩時間の終わりを確認した私は急いでパソコンの画面をパタっと閉じた。助け舟のように休憩時間が終了した事に心から安堵してしまう。

 私の言葉に時田くんは考えたように下を見て俯いている。

 「…向日葵さん、今日夜空いてますか⁇たまには俺と飲みに行きません⁇」

 「えっ⁉︎飲み⁉︎」
 
 突然の飲みの誘いに私は正直に驚いてしまった⁉︎私と時田くんが飲みにいくなんて事はこの1年間一度もなかったからだ…。
 それどころか2人だけで飲みに行ったことなんてこの7年間一度もない…。
 同期4人で飲みに行く事はあったが、2人で飲みに行くなんて事は今まではない事だった。
 理由は取り留めて誘われないし機会もなかったのと、私が敵意を抱いている時田くんと2人で仲良く飲みに行くなんて、何だか負けているようで嫌だったからだ。

 考えて俯いている私に、「俺なら向日葵さんの望みを叶えられるかも」と言って耳元でひそひそと耳打ちをした。

 「えっ、望み⁈」

 私はいきなり耳打ちされた者だから、咄嗟に赤くなって耳を押さえた。

 「お疲れ様です。あれ⁇向野さんお昼行かなかったんですか⁇しかも時田さんまで⁇」

 アタフタしている私の様子に気付かず、お昼から戻ってきた三つ下の後輩の加原《かはら》くんが不思議そうに私たちに話しかける。
 
 「あー…そう。ちょっと来月の社内コンペのことで向野さんと話してたんだ」

 私と2人でいる時は“向日葵さん“て名前で呼ぶのに、社内の人達の前では“向野さん“て名字で呼ぶ事も、実は密かに前々から気になっていた。

 「2人共相変わらず仕事熱心ですね‼︎でも敵対する2人が仲良さそうに話してるなんて珍しい」

 加原くんは鋭い所を突いてくる。

 「仲良さそうになんて話してないよ。ただ時田くんが必要な書類を持ってきてくれただけ」

 少し苦し紛れに言った言葉だが、我ながらナイスアドリブだと自分で自分を褒め称えたくなった。

 「そうなんですか。でも、それじゃあ2人ともお昼行ってないんじゃないですか⁇」

 加原くんの鋭い質問に私に付き合って時田くんまでお昼を食べ損ねている事に気が付いてしまう。たまにお昼を抜いてしまう事のある私は慣れているから平気なのだが、時田くんは空腹なのではないかと心配になった。

 「あー俺、忙しいと一食抜くくらいザラだから大丈夫」

 そう言いながらも私は時田くんがお腹が空いているのではないかと気になってしまう…。でもどうして貴重なお昼休みの休憩時間に私の所になんか来たのだろう⁇私の様子があまりにも不審だから揶揄いに来たのだろうか⁇それとも敵城視察⁈

 益々時田くんの考えてることが分からない…。首を傾げている不思議がっている私に「2人共、昼飯抜くのは良くないですよ。ちゃんと食べないと」と言って加原くんは去って行った。

 「さっきの話…今日仕事終わったら19時に中田の高架下の居酒屋で待ってますから。絶対に来てくださいね」

 まるで内緒話でもするみたいに時田くんは私の耳元でびっくりするような内容を耳打ちした。

 「待って。何で勝手に決めて…」

 「もう決定事項です」

 必死で断ろうとしたのも虚しく、時田くんは私に勝手に飲みに行く約束を取り付けてウインクをしてクスッと不敵なえみを浮かべて去って行った…。

 (……もぅ、勝手に決めないでよ……)

 どうしていきなり私を飲みになんか誘うのだろう⁇私の心は⁇で疑問だらけだ。でもきっと私が誰にも見られないように打ち込んだ恥ずかしすぎるキーワードが原因だろう…。
 
 (……よりによって時田くんにあんな恥ずかしいキーワードを見られてしまうなんて……)

 パソコンに向かうの心は乱れに乱れ、仕事に集中できない…。結局一日仕事に身が入らなかった。

 
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