無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~
 男はただ、丁寧に礼をして背を向ける。

 リディアはその姿を見送りながら、その場に立ち尽くした。
 大きな口をきいていたが、実のところ心臓がばくばくだ。

(あの金額、どういうこと?)

 とても普通のフォシニに支払う額ではない。

(レイは一体──)

 そう思った瞬間、首に腕が回ってきて背後から抱き寄せられる。

「リディア」
「……レイ? いつ戻ったの?」
「さっき」

 レイの吐息が、耳にあたる。

「俺のこと、大事な家族って言ってた」
「ええ、言ったわ」
「お金と引き換えにできないって」
「当然でしょう。レイは売り物じゃない」

 強い口調でそう言うと、回された腕に力がこもった。

「嬉しい」

 小さな声だった。

「すごく、嬉しい」

 リディアはレイの顔を見ようと、体を捩る。レイの腕はすんなりと緩んだ。

「レイ、こっちを見て」

 少し顔を上げたレイは、どこか泣きそうな顔をしている。もしかしたらレイは、あの金額を提示されたらリディアが彼を売るかもしれないと不安に思っていたのかもしれない。

 リディアは自分からレイの背中に手を回すと、安心させるように軽く叩く。

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